没入感とゲーム性のクオリティが高い。マーダーミステリー『鬼哭館の殺人事件』は推理もストーリーもバランスよく楽しめて“マダミスを初めて遊ぶ人にもおすすめ”な作品
2019年ころから流行りはじめ、今もなお急成長し続けている“マーダーミステリー(マダミス)市場”。大流行している中国ではカラオケと同じくらい普及が進んでおり、市場規模は3000億円を誇ると言われている。 【この記事に関連するほかの画像を見る】 とはいえ、日本ではまだまだ知る人ぞ知るジャンル。そこで、電ファミニコゲーマーでは「マダミス界隈がさらに盛り上がってほしい!」「マダミスの魅力をもっと広げたい!」という想いのもと、マーダーミステリー評論家として活動しているにっしー氏による連載企画をスタート。 本企画では、にっしー氏おすすめのマダミス作品を中心にマダミスを楽しむための情報を発信していく予定だ。今回は、『鬼哭館の殺人事件』という作品を紹介。 マダミス評論家にっしーによるおすすめマーダーミステリー紹介の第1回は『鬼哭館の殺人事件』を紹介します。 なお、マーダーミステリーはひとつの作品を1回しかプレイできないという性質上、ネタバレ厳禁なゲームジャンルです。 この記事でも直接的なネタバレはもちろん、ゲームのシステムに関わるようなことも触れないようにしています。それでも一切のネタバレ無しというわけにはいかないということと抽象的な表現になっていることはご了承ください。 この作品の最もすぐれているのは全体的なクオリティの高さです。マーダーミステリーに初めて触れる人でも経験者でも、推理に頭を悩ませたい人でも物語を楽しみたい人でも満足することができます。 マーダーミステリーの楽しさは、手がかりから犯人を探し出す推理、キャラクターや作品世界に浸る没入感、自分の目的を達成するための競合の3つが主にあります。 『鬼哭館の殺人事件』はこれらすべての質が高く、バランスよく面白い作品になっています。 文/にっしー ■全員が主人公と感じられる没入感の高さ 7人の登場人物すべてが主人公としてきちんと描かれているというのも高評価のポイントです。 推理アドベンチャーや推理小説であれば主人公はたいてい1人です。プレイヤー(あるいは読者)はその主人公目線で満足できればそれで十分です。 脇役たちがどんな人生を歩んできたのか、作中に登場しない場面で何をしているのか、これらが設定されていれば作品の深みは出るでしょうが、無くても大きな支障は出ないでしょう。 しかしマーダーミステリーは主要な登場人物がすべてプレイヤーキャラクターという群像劇です。ひとりの登場人物をひとりのプレイヤーがゲームの初めから終わりまで担当し、途中で視点の切り替えは行えず、キャラクター選択時はわずかな情報の中から選ぶことになります。 そして一度プレイすれば犯人やギミックが分かってしまうため、同じ作品は一度きりしかプレイできません。 今回ははずれ役だったから次回がんばろうというわけにはいきません。 同じ作品で二度目のプレイはないのです。 どのキャラクターも主人公だと感じられるのは、全員が物語にしっかり組み込まれているからであり、キャラクター造詣に深みがあって魅力的な人物として描かれているからです。 事件当日にどこで何をしていたかが違和感なく組み立てられているのはもちろん、どういった生い立ちなのか、どのような人生を送ってきたのか、ほかの登場人物たちとどのような関係性があるのかがしっかり描かれています。 順風満帆で幸せで平凡な人生を送ってきたわけではなく、波乱万丈だったり、悲しい出会いや別れを経てきています。 これには小説のように趣向を凝らしつつも、簡潔で読みやすい文章も貢献しています。 そのおかげでプレイヤーはキャラクターにより共感し、没入し、どういう行動原理を持っているのか、何をしたいのかを想像することができます。 事件の全容を知ったとき、プレイヤーは心を動かされるはずです。 『鬼哭館の殺人事件』は「大正浪漫マーダーミステリー」と銘打たれていて、大正時代という舞台設定の魅力も世界観を引き立てるのに役立っています。 実際の大正時代がどうだったのかはさておき、江戸時代まで続いた近世から脱却して、民主主義や西洋文化が採り入れられた近代である一方、昭和初期のような軍国主義の暗い影はまだ見えないというイメージです。 現代に通じるモダンさと近代までの純和風さが融合したエキゾチックな雰囲気です。 大正ロマンを表現したエンタメ作品の数は多くないものの、『サクラ大戦』シリーズや『千本桜』、『鬼滅の刃』なども大正時代がモチーフです。 本作でも作家やお嬢さん、将校といったどの登場人物たちも大正時代らしさを象徴しています。 マーダーミステリーではプレイヤーは登場人物のひとりを担当し、そのキャラクターの目標を達成するためにプレイします。 プレイヤーとキャラクターの距離が近くて、キャラクターの喜怒哀楽を我がことのように感じられる没入感がひとつの魅力です。 そのためには作品側がキャラクターをプレイヤーに近づける努力が必要であり、『鬼哭館の殺人事件』ではその努力に十分な労力が払われています。 ■プレイヤーが楽しめることに注力したゲームシステム マーダーミステリーがゲームである以上、物語やキャラクターが良いだけでは良いゲームとはいえません。 その点、『鬼哭館の殺人事件』はゲームシステムの設計も抜かりはありません。 本質的にマーダーミステリーは犯人探しゲームであり、ゲームとしての公平さが担保されている必要があります。 つまり、犯人陣営にも探偵陣営にも目標を達成できる勝ち目がほぼ同様にあることです。 マーダーミステリーではHPやリソース量が数値化されているわけではないので、Excel上でパラメーター調整できるわけではありません。それでも犯人を絞り込むルートの数、それぞれのルートの難易度、犯人探しに費やせる時間等から推測することはできます。 本作ではこれらを意識したバランス設計がされていて、どのキャラクター、どの陣営であっても納得できます。 しかも単にバランスが良いだけではなく、その先まで踏み込んだプレイヤーファーストなデザインになっています。 具体的に言えば、マーダーミステリー初心者が苦手とするふたつの要素をなるべく減らそうとしています。 ひとつは「自分が犯人役になった場合、すぐに見つかったら迷惑をかけてしまうプレッシャー」、もうひとつは「ほかのプレイヤーと競合するのが苦手という意識」です。 犯人役として下手なプレイをしたら迷惑をかけるというのはプレイヤーの気遣いから生まれる心配です。 基本的にマーダーミステリーでは犯人役はひとりで、ほかのプレイヤーは犯人を探すことが主目的です。そしてプレイに1時間以上かかる作品がほとんどです。『鬼哭館の殺人事件』もプレイ時間の目安は4時間です。 心優しいプレイヤーは、犯人だとバレてしまうのは仕方ないが、下手なプレイングによってほかのプレイヤーの犯人探しの楽しみを奪ってしまうのではないかと心配してしまいます。 実際のところは自白でもしない限り、すぐに犯人だとバレるような作品はありませんが、本作ではシステム的なセーフティーネットも用意されています。 ほかのプレイヤーと目的が正反対で競い合うというのは、PvPゲームでは必然です。 最近では『Apex Legends』や『VALORANT』をはじめとして日本でもPvPゲームが盛んになってはきているものの、ゲームシーン全体としては日本人はPvEゲームを好む傾向があります。 特にストーリー重視のゲーム好きなプレイヤーにはその傾向があります。 マーダーミステリーもストーリーやキャラクター重視なのですが、一方で犯人探しが主であり、犯人として逃げ切る陣営、犯人を探し出す陣営がいる以上は競合が発生します。 つまり物語を体験したいけれど、ほかのプレイヤーと競合したくないという層が一定存在します。 『鬼哭館の殺人事件』でも犯人探しを巡る対立はありますが、競合性が高くならない仕組みを作品側が担保しています。 ■どのプラットフォームでもプレイできる幅の広さ 『鬼哭館の殺人事件』は物語やシステムといったゲームの内側だけでなく、ゲームの外側でも遊びやすさが提供されています。 もともと本作はパッケージとしてリリースされましたが、いまは一部の店舗で公演の取り扱いがあったり、ブラウザベースでオンラインでプレイできたり、スマホアプリ「UZU」でも公開されています。 パッケージ、店舗、ブラウザ、スマホアプリとマーダーミステリーが遊べるすべてのプラットフォームが網羅されていて、プレイヤーは自分の都合に合わせて遊ぶプラットフォームを選択できます。 ほとんどのマーダーミステリー作品は遊べるプラットフォームがひとつかせいぜいふたつで、その面でも非常に柔軟性が高い作品です。 本作は物語性、ゲーム性のいずれもレベルが高く、初心者からベテランプレイヤーまで楽しめる作品です。 遊べるプラットフォームも多く、マーダーミステリーに触れたことがない人の初めての経験としてプレイするのに適した作品といえるでしょう。 ■『鬼哭館の殺人事件』イントロダクション 時は、大正。 帝都の外れに、死人の藝術を揃えた奇妙な館が噂される。 その名は「鬼哭館」。 ここでは時折、客人を招き奇妙な展示が開かれる。 此度の祭典に現れたのは、六人。 そうして一夜明けたのちに、現れるのは一つの死体。 不可解な死体はまさに死人の館を飾るにふさわしい「鬼の祟り」。 奇妙な事件に現れたるは「自称名探偵」。 さぁ、不可解な殺人現場にいかなる秘密と物語が隠されているのか。 プレイ人数:6人~7人(進行役不要) プレイ時間:240分 プラットフォーム:店舗、パッケージ、オンライン、スマホ プレイヤーキャラクター 作家:かつて一世を風靡したこの時代を象徴するとも言える文豪の一人。 書生:作家の元手住み込みで働きながら勉学に勤しむ学生。 将校:大日本帝国陸軍所属の将校。 新聞記者:大日本帝国新聞社勤務の記者。 お嬢さん:育ちの良さそうなお嬢さん。 メイド長:鬼哭館に使えるメイド長。 探偵:「自称」名探偵。鬼哭館には事件が起きた後に訪れた。
電ファミニコゲーマー:
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