【只見線全線再開通2年 地方創生の針路】(下) 本数増へ訴え切実 利便性 路線維持の鍵
福島県会津美里町の会津西陵高で9月に開かれた町の未来を考えるワークショップ。「運行や車両が少なくて通学に不便」。JR只見線で通う生徒から不満の声が上がった。 学校の最寄り駅は約1キロ離れた会津高田駅。柳津町から通う3年の目黒楓さん(17)は午前5時30分に起床し、会津高田駅に午前7時着の列車に乗る。帰りは午後5時23分発。午後3時過ぎに授業を終えると、1時間30分ほど学校で待たざるを得ない。会津若松方面から通う生徒からも、下校時間帯に最適な時間に来る列車の運行を求める声は少なくない。目黒さんは「運行本数を増やしてほしい」と切実に訴える。 全線再開通後、観光などによる乗客数増加が注目される一方、1日3往復しかないダイヤの利便性の改善を求める声はやまない。新潟・福島豪雨被害からの復旧に向けて県とJRが締結した基本合意書・覚書には「被災前の1日当たり3往復を基本とする」と明記されており、実現へのハードルは高い。それでも、県が事務局を務める県鉄道活性化対策協議会は沿線の総意としてダイヤ改正をJR東日本に求め続けている。
第2期只見線利活用計画検討会議で公表された旅行会社に対するヒアリング調査結果では「ツアーに利用できる列車が上下とも1本ずつしかなく、時間的に旅行商品を作りにくい」「コースや行程が制限される」といった実情が報告された。 観光や通学以外にも、持続可能な路線とするには地元住民の“マイレール意識”が欠かせない。福島大経済経営学類の吉田樹教授(45)は観光路線としての利活用だけでなく、地域住民が利用して只見線に向き合っていく必要性を語る。鉄路を生かす地域づくりに向けて「地域住民の幸福度やUターン、移住定住につながる施策を考えなくてはいけない」と指摘する。 全線開通後、2年をかけて徐々に増えている観光客の受け入れ体制も課題だ。只見町内の宿泊施設は、只見川沿いのダム工事や発電事業の関係者らが長期で宿泊するという地域特有の事情がある。只見駅前の只見荘は観光客も含めて10月中の予約がほぼ埋まっている。代表の目黒文雄さん(59)は「全線再開通後、県内外から人が来て活気が出ている。ただ、観光客全てに対応はできていない」と苦しい胸の内を明かす。
JRが運行を担い、地元が鉄道施設を保有、維持管理する「上下分離方式」を導入して全線再開通してから2年。投資に見合うだけの利用を促し、沿線地域を含む会津全体に波及効果をいかに還元できるか。「日本一の地方創生路線」の挑戦は始まったばかりだ。