移動手段不足を補う 「ライドシェア」の利点や課題を大江麻理子さんと深掘り!【働く30代のニュースゼミナール vol.47】
テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第47回目は「ライドシェア」について大江さんと一緒に深掘りします。 【フォトギャラリー】大江麻理子さんと考える社会問題「働く30代のニュースゼミナール」 ■今月のKeyword【ライドシェア】 らいどしぇあ▶一般ドライバーが自家用車を使って有料で乗客を運ぶサービスのこと。日本では現在条件つきで二つのライドシェアが実施され、過疎地などで適用される『自家用有償旅客運送』と今年4月から開始した『日本版ライドシェア』がある。日本版ライドシェアは、幅広い事業者にも参入を認めるか議論が続いている。
【関連ニュースTopic】タクシー不足を補うため『日本版ライドシェア』が一部で解禁されました 2023年12月 政府が、ライドシェアを2024年4月から限定的に解禁する方針を示した デジタル行財政改革会議で、地域交通の課題を踏まえ、自家用車や一般ドライバーを活用した新たな運送サービスを2024年4月から一部解禁するとの中間報告をまとめた 2024年4月 タクシー事業者の管理の下時間帯や地域を限定した日本版ライドシェアが開始 車両不足が深刻な都市部や時間帯に限って、タクシー事業者が運行管理をし、タクシー配車アプリのデータなどを活用して実施する『日本版ライドシェア』がスタート 2024年6月 全国ハイヤー・タクシー連合会が資料を発表。タクシー運転者数が減少傾向に 「TAXIT ODAY in Japan 2024」によると、法人タクシーの運転者数は2004年度のピーク時から2022年度にかけて約16万7000人減少。43.7%減ったことに
■「タクシー事業者の管理の下で『日本版ライドシェア』が限定解禁。移動手段不足を補う」 「『日本版ライドシェア』が今年4月からスタートしました。タクシーがつかまらず困った経験がある、という意見がアンケートでも多かったですし、読者の方の関心が高いニュースなのではと思い、取り上げました」と大江さん。そもそもライドシェアとは? 「一般のドライバーが自家用車を使って有料で乗客を運ぶサービスのことです。アメリカなど海外で普及していますが、日本では原則認められていませんでした。しかし現在は、深刻なタクシー不足を背景に、今年の4月から都市部などで限定的に解禁された『日本版ライドシェア』と、主に過疎地の移動需要を補う『自家用有償旅客運送を活用したライドシェア』の二つが実施されています。今回は特に『日本版ライドシェア』について考えます」 海外でのライドシェアと『日本版ライドシェア』はどこが違うのですか? 「海外でも国や地域によって様々な規制があります。日本の場合、いちばんの特徴は運営がタクシー事業者に限られていることです。タクシー事業者が運送責任を持ち、ライドシェアのドライバーや車両を管理していて、営業に入る前のアルコールチェックや健康状態の確認、車両整備などを行います。また、ライドシェアが解禁されている地域が限定されていますし、時間帯もタクシー不足が深刻化する通勤時間帯や深夜などに限られています。タクシーの営業に影響を及ぼさないための仕組みです」 『WBS』の番組内の取材で、実際にライドシェアの車両に乗車した大江さん。利用者にとってのメリットは何ですか? 「まず、ライドシェアが増えることによりタクシー不足を補える点がメリットです。運賃がタクシーと同水準で事前に確定し、決済はすべて配車アプリで完結する点も挙げられます。ただ、4月に制度がスタートしたあと、タクシー事業者が各自でライドシェアの運営管理方法を整えたり、ドライバーの募集や研修を行ったりする期間が必要でした。そのため、ドライバーがまだ少なく、タクシーの供給不足を埋めるほどの存在にはなれていません。いちばんのメリットが発揮されていない点は現状の制度の課題と言えそうです。そうした中で、雨の日や35度以上の猛暑日、大きなイベントがある時などにもライドシェアを解禁することになりました。ドアツードアの移動手段が多くの人に必要とされる時の利便性を向上させるため、柔軟に内容を拡充させていっているのが印象的です」 ■「全面解禁についての議論が活発に進行中。利用者の立場に立った検討が求められる」 4月からの『日本版ライドシェア』の検証と並行して、IT企業などタクシー事業者以外の参入を認める、いわゆる「全面解禁」について議論が行われている。 「現在、是非をめぐって活発な議論が交わされています。タクシー不足の解消に加えて、インバウンド需要を含めた利用者の利便性向上のためにも全面解禁すべきという意見がある一方、反対の声もあります。タクシー関連の団体などが懸念しているリスクとしては、新規参入する事業者が責任を持ってドライバーや車両の安全管理を行えるのか、事故が起きたときの補償面をどうするのか、また、タクシードライバーの仕事を奪うことにならないか、ダイナミックプライシング(価格変動制)が導入された場合、利用者が不利益を被らないかなどがあります」 政府は6月に発表した骨太の方針で、安全を前提にライドシェアを全国に広げる考えを示した。今後さらなる検討が必要だ。 「これから検討や検証が行われる中で、欠かせないのは『三方(さんぽう)よし』の観点です。三方とは、『買い手』『売り手』『世間』のことで、『三方よし』は商売上手といわれた近江商人がモットーとしてきたことです。利益や不利益がどこかに偏らず、皆が納得する道を探るのは大変なことかもしれません。しかし、日本はライドシェアの導入が遅れたからこそ、他国で問題となった事例も踏まえてよりよい制度を作ることができるはずです。利用者が安心して乗れる、利便性の高いサービスにすること、ライドシェアドライバーが安い労働力として搾取されないよう、きちんとした待遇にすること、タクシードライバーの立場を守り、共存ができるようにすること。様々な立場の人にとっていい制度になっているか見極めて決断を行う、政治の力も求められます。どの業界も労働力が不足している今、これまでの仕組みを変える必要があるのは自明です。ただし、誰かを悪と決めつけてしまうと、議論が進まず三方よしが遠ざかってしまいます。議論の過程を私たちもしっかり見ていくことが大切だと思います」 大江麻理子 おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。 撮影/花村克彦〈Ajoite〉 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2024年10月号掲載