二宮和也がバーチャル化を果たし、元・四天王は再起を図る VRChatには経済圏が芽吹くか
■とある“元・四天王”が再起をはかる 「こんなことが起きるのか」――ながらくVTuber業界を見てきた筆者だが、そうとしか言えなかった。 【動画】『パズドラ』CM VTuber・二宮和也篇メイキング映像 ソニーミュージックより11月21日にデビューしたVTuber、アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ。「生まれ故郷のゲッティ帝国を追われ、自らが国王のパスタ王国を立ち上げる」というバックストーリーを持つ、配信主体のVTuber。渋谷で街頭ジャック広告を打ち、デザインは商業漫画家の守月史貴氏が担当と、座組や展開が豪勢ではあるが、いたってスタンダードなVTuberである。 ”元・四天王”が生まれ変わったVTuberである、という一点を除いて。 「ある場所で不当な仕打ちを受けて出奔し、新しい場所で再起する」という設定と、なによりその声。“元・四天王”という肩書と照らし合わせれば、該当する人物は一人。おそらく企業所属VTuberとしては初に近い「転生元を公式にほのめかすバーチャルタレント」が、とんでもない大物によって実現したと言ってよいだろう。 公式から明かされていない以上、その名前を明言することは差し控えたい。しかし、筆者は今年の3月末、“彼女”が最後を迎える場に、おそらく立ち会っている。その終わり方が、決して恵まれたものではなかったことも知っている。面食らっているのも事実だが、個人的には、新たな門出をまずは祝いたい。そして「前世を公式にほのめかす」という動きが、ある意味では解禁されてしまったVTuber業界の今後の動向も静かに見守りたい。願わくば、彼女のこの先が明るい未来であってほしいところだ。 ■二宮和也もVTuberに――止まらない「バーチャル化」の流れ 「VTuberになる」ということは、黎明期と比べればだいぶカジュアルなものになったようだ。元・嵐メンバーのタレント・二宮和也が、『パズル&ドラゴンズ』(パズドラ)のCMでVTuberとなって出演したように。 3Dモデルのデザインは、『パズドラ』に登場するモンスターのデザイナーが担当しており、二宮和也自身の容姿をほどよくデフォルメしたテイストだ。直近の芸能人VTuber化事例である「ぶいごま(後藤真希)」や「ぬくみん(温水洋一)」と比較すると地味に映るかもしれない。しかし、メイキング動画と合わせて、VTuberカルチャーになじみのない人にも受け入れやすい穏当なVTuber化事例とも言える。 一方、最前線に目を向けると、国内大手・にじさんじからあらたに3名の新人ライバーがデビューした。男性1名、女性2名という比率で、ここ最近は男性タレントのデビューが続いていた中で、ひさしぶりとなる女性タレントデビューだ。 そして、この女性2名(立伝都々、栞葉るり)は、ANYCOLORによるタレント養成プロジェクト「バーチャル・タレント・アカデミー(VTA)」の出身者だ。一部生徒のルール違反によって一時プロジェクト自体が休止し、生徒の配信活動も中断されていたことで先行きが不安視されていたが、先日募集開始となった複数のオーディションと合わせて、ようやく本格的に再始動したと思われる。昨年3月にデビューした「Ranunculus(ラナンキュラス)」の3名を皮切りに、成果の出ている取り組みであることはたしかなので、今後も継続していってほしいところだ。 ■有料サブスク制度の導入で『VRChat』に経済圏が芽吹くか 『VRChat』には、いよいよ経済圏の萌芽が起こりそうだ。収益化機能「有料サブスクリプション(Paid Subscriptions)」のオープンベータがスタートしたのである。 前段をお伝えしておくと、これまでの『VRChat』は決裁能力を持たなかった。クリエイターやパフォーマーなどを支援するには、基本的には外部サイト頼りだった。「Patreon」で支援すれば、特典解禁用のパスワードが提供される……という具合に。もちろん、収益の分配に『VRChat』は関与しない。 「有料サブスクリプション」は、この回り道を解消する。具体的には、『VRChat』内で「VRChat Credit」と呼ばれるサービス内通貨を購入し、様々な特典の購入に充てることができる。専用アセットを適用することで「特典の解禁」を実装できるようで、準備の容易さもウリになっている。 発生した収益は、クリエイターに50%、「Steam」などのプラットフォーマーへ30%、『VRChat』本体とパートナーへ20%、という比率で分配される。なお「VRChat Credit」と特典購入は全ユーザーに解禁されているが、クリエイター側の特典設定は順次解禁となっている。とはいえ、ゆくゆくは全ユーザーに解禁予定だ。 「VRChat内で直接お金を投げる」という行為が解禁されることで、『VRChat』に新たなクリエイターエコノミーの形が生まれることが期待される。もちろん、完全に『VRChat』だけで食べていくだけの収益を上げるのは容易ではないだろうし、そもそも「収益の発生」を是とするかどうかは、各人の信念に左右されるだろう。クリエイター文化の強い『VRChat』では、しばらくこの機能をめぐった議論が紛糾する予感がある。 とはいえ、「選択肢がない」という状態から一歩進んだのはたしかだろう。そして、来年1月にはさらなる機能などの告知があるらしく、『VRChat』のクリエイターエコノミー構築に向けた取り組みは、まだまだ始まったばかりと言える。経済圏の第一歩となる「有料サブスクリプション」は、2週間のオープンベータ期間をはさみ、正式リリースを目指す。
文=浅田カズラ