それは「奇跡のような贈り物」、古代の北米先住民が岩や大地に刻んだ謎多き芸術作品たち
「岩絵は、もはや地球上に存在しない人々の知見を共有する機会を、私たちに与えてくれます」
写真家のスティーブン・アルバレスは、NPO「古代アート・アーカイブ」を設立し、世界各地に残る先史時代の絵画や彫刻の記録に取り組んできた。 ギャラリー:北米最大の洞窟壁画を発見 「風景はそれ自体の物語を語ります」と、アルバレスは言う。「その風景の中で、どんな出来事が起こり、誰が暮らし、何をしたのか。芸術作品と風景を切り離すことはできません」 先住民と非先住民の両方の考古学者や人類学者、民族誌学者、芸術家、口承史家たちが、こうした芸術作品の研究と保全に多くの時間を費やしてきた。彼らにとって、これらの作品は傑作であるだけでなく、何世紀も風雨に耐えて残り、現代の私たちを驚かせてくれたり、好奇心を抱かせてくれたりする奇跡のような贈り物だ。 「誰だって、風景の中に自分たちの生きた証しを残して死にたいものです」と、米国先住民のチョクトー族の考古学者ジョー・ワトキンズは語る。「岩絵は、もはや地球上に存在しない人々の知見を共有する機会を、私たちに与えてくれます」 古代の先住民による芸術作品に関しては、わかっていないことが非常に多い。正確にはいつ作られたのか? 作り手にとって、その作品はいったい何を意味していたのだろう? それでも私たちは、岩に彫られ、石に描かれ、泥に刻まれ、大地に築かれた作品から、多くを学び取ることができる。おそらく最も重要な点は、何万年にもわたって、米国先住民の豊かな社会が「カメの島」(多くの先住民は北米大陸をこう呼ぶことを好む)に存在してきたということだろう。 こうした芸術作品は私たちに対して、古代の先住民が残した遺産に気づいて敬うようにと呼びかけ、先住民の共同体が「カメの島」やほかの場所で耐え忍んできた傷を認めるようにと促してくる。 さらに米国先住民がはるか昔からここにいたこと、そして過去から届く先住民の声や物語、芸術が、現在つくられているものや、将来つくられるものと同じように重要であることを思い出させてくれるのだ。 ※ナショナル ジオグラフィック日本版5月号特集「岩に残された、太古の物語」より抜粋。
文=ケイト・ネルソン(ジャーナリスト)