新型メルセデス・ベンツ CLE200クーペ スポーツは令和の高級デートカーだ! 今、あえて2ドアクーペを選ぶ意味とは?
まるでポルシェみたい!
CLEは車重が重い。ということはある。チョイ乗りしたCLE200の車両重量は1800kgもある。これはC200の、後輪操舵まで装備した場合のいちばん重いモデルの1730kgより70kg重い。オプションのダイナミックボディコントロール(可変ダンピング)やリヤアクスルステアリングにくわえて、20インチのタイヤ&ホイールを装着していることもある。C200のホイールは2インチ小さい18インチにとどまっているから、これだけでもかなり違う。 乗り心地がハードに感じたのは、20インチで、前245/35、後ろ275/30なんぞというスーパーカー顔負けの、うっすいゴムをつけているのだから当然ともいえる。おまけに速度が30km/h程度である。これではいかに可変ダンピングを装備していようと、想定外の速度にちがいない。若干ハーシュネス、上下方向の突き上げがあるのも当然だ。 同時に印象的なのはボディ剛性の高さである。その直前、開口部のたくさんあるE200ステーションワゴンに乗っていたから、なおさらそう感じたのかもしれない。E200ステーションワゴンのボディ剛性が低いわけではない。ワゴンとしては抜群に高い。だけど、それ以上にCLE200はガチっとしている。まるでポルシェみたい。というのがメルセデスのクーペに相応しい表現かどうかは別にして、ものすごくしっかりしている。ホイールベースが短くて、開口部がドア2枚しかない。リヤは独立したトランクになっていて、ハッチバックがないこともボディ剛性には好適だ。 シートはCLE専用デザインで、ヘッドレストまでほぼ一体型になっている。座っての確認はサボったけれど、後席は大人2人が乗れる広さを持っている(らしい)。前席バックレストを倒すためのロック解除用としてナッパレザーのストラップが採用されている(らしい)。これがプレミアムクーペにふさわしいエレガントな操作感を生んでいる(らしい)。今度、機会があったら確認したい。 エンジン、トランスミッション、サスペンション、ステアリングまで統合制御するダイナミック・セレクト、いわゆるドライブモードをコンフォートからスポーツに切り替えると、コンフォートでもファームな乗り心地はさほど変化が感じられなかったものの、9ATがギアを落としてエンジン回転を上げ、スポーティなサウンドを発する。 こんなにスポーティな必要があるのか? メルセデスがそうしているのだから、必要がある、ということなのでしょう。国内のこれまでのメルセデスのクーペの販売状況は、発売当初は売れるものの、一定数ゆきわたると、それでおしまいになるという。スポーツカーとおなじで、マーケットが限られている。しかも、4ドアクーペだとかSUVクーペなんてのまで最近は定着してきているから、従来型の2ドアクーペのマーケットは縮小傾向にあると考えざるを得ない。そうすると、差別化のために、2ドアクーペというボディ形状の得意の分野である運動性能を磨くことになる。つくり手もスポーツカーは大好きだろうから、勢いスポーツカーっぽくなる。ユーザーもそういうスポーツカーっぽさを期待する。みたいな部分があるのかもしれない。 かつてはスペシャリティカーだとかデートカーだとか、2ドアクーペという形態は日本でも大人気だったのに近頃はさっぱりである。このままだとなくなる……という心配を、自動車ファンの編集部のIくんはしている。なるほど2ドアクーペというのは不便である。なんだって、こんな不便なものを昔のひとはありがたがっていたのか? と、世間の人は思っているのかもしれない。 だけど、自動車というのは公共のものではなくて、個人のモビリティの道具であり、自己表現なんだ、という意識が社会の一部にでも残っている限り、クーペは大丈夫だろう。2ドアクーペがなくなるとき。それは地球上からテーラードのジャケットがなくなるときだろう。 もしかして、それは案外早く来るかもしれないのですけれど……。
文・今尾直樹 写真・田村翔 編集・稲垣邦康(GQ)