両輪駆動のフル電動! リアルに再現された「金田のバイク」が登場
ホンダDN-01、NM-04やスズキGストライダー等、未来的なバイクが発表されるたび、インスパイア元として必ず言及されるバイクがある。そう、大友克洋監督によるSF作品「AKIRA」に登場する「金田のバイク」だ。 【画像】金田バイク制作の様子やその他の再現モデルをギャラリーで見る(9枚) 文/Webikeプラス 石川順一
「やっとモーターのコイルが温まってきたところだぜ!」と言える本物のハイブリッドバイクに
バチバチとホイールからスパークが奔る姿や、伝説的な構図としていまやオマージュに事欠かないスライドブレーキのシーン、そして「俺用に改造したバイクだ!ピーキー過ぎてお前にゃ無理だよ」という主人公、金田正太郎のセリフにシビれた”健康優良不良少年”も多いだろう。 オマージュも含めれば、金田のバイクの実車化プロジェクトは枚挙にいとまがないほど。この事実から考えても、”バイクの未来”を象徴するエポックメイキングな一台であるといえそうだ。 そんな金田のバイクだが、これまで行われてきた実車化はいずれもエンジン搭載車が主。「やっとモーターのコイルが温まってきたところだぜ!」をやろうにも肝心のモーターがないんじゃやりようがない。実際には発熱すると磁力が下がってモーターの性能が落ちるけれど、そこはご愛嬌だ。 見た目はもちろんのこと、作品で描かれた機構まで再現した”本物”を作れないか…。そんな夢に今回取り組んだのが、「レトロな美学と新しいテクノロジーの融合」を標榜するスペインのクリエイティブスタジオ「Bel&Bel 」だ。2020年に鳥山明先生の名作「ドラゴンボール」に登場するランチの一輪バイクとブルマのカプセル9バイクを高い再現度で制作したことでも知られている。もちろん、いずれもきちんとバイクとして機能する走行可能なモデルだ。
スタイルと走行性能を両立したハイブリッドのプロトタイプ
その反響を受ける形で、空想バイク実車化プロジェクト第3弾として着手したのが、金田のバイクだった。彼らがベースとして選んだのは、1995年に登場したヤマハのビッグスクーター「マジェスティ」初代モデル。その外装を剥がし、ガソリンタンクを取り去って、エンジンとフレーム、そして足回りだけにしたところから制作はスタートした。 こうしてみてみると、低めに組まれたアンダーボーンフレームということもあり、意外と近いイメージ。もっとフロントフォークやスイングアームを寝かせれば、かなり寄せられそうだ。 Bel&Belもそう判断したのか、次に取り掛かったのは足回りの大改造だった。大友克洋監督のデザイン画に寄せる形で、片側2本、計4本のテレスコピックフォークを組み合わせたフロント周りを作成しつつ、フレームのヘッドパイプの角度を変更。さらにホンダVFR800の片持スイングアームを後部に組み合わせることで、ロー&ロングなスタイリングを実現した。 もっとも、これまで行われてきた数々の 実車化プロジェクトでネックとなったように、金田のバイクのデザインを忠実に再現しようと思うと、テレスコピックフォークが突き出しているためキャスター角が大きすぎる上に、ホイールが小径というわけでもないので、トレール量も一般的なクルーザーの比ではないくらい大きい。つまり直進はできるが曲がれないバイクなのだ。 この問題には多くのビルダーが頭を悩ませてきた。かつて大友克洋監督公認も得た、株式会社BSUのレプリカではフロントフォーク用とステアリング用の2つのヘッドパイプを設置し、この間をリンクでつなぐ「ロッドエンド式ツインステアリングシステム」という特許も取得した独自機構を開発しなければクリアできなかったほどだ。劇中の姿と走りに近くできたが、機構が複雑なため量産には向かないという欠点もある。 ではBel&Bel はどうしたか。スタイリングと走りの両立を、リアにエアサスを2本設置することでクリアした。つまり、停車時はリアサスを縮めて車高の低い劇中の姿そのままに、走行時はリアサスを伸ばすことで相対的にキャスターを立て、実用的なトレール量を確保できるようにしたのだ。多少スタイルは崩れるものの、走行時の姿も十分カッコいいから、とてもいい落とし所に見える。完成後の走行シーンを見ると、ちょっと走り出しであたふたしている様子も見られるが、このディメンションでは十分安定している方だろう。 そうして大まかな骨格と足回りができたところで、動力系に着手。マジェスティの250ccエンジンで後輪を、1000Wのインホイールモーターで前輪をといったハイブリッドな両輪駆動とした。劇中のスペックからすればエンジンを発電機として使うシリーズハイブリッドが一番近そうだが、「1万2千回転の200馬力」「エンジン5000回転以下でギアチェンジするとエンストを起こす」といった設定からすれば、通常のハイブリッドもまた当たらずとも遠からずといったところ。エンジンと対話する楽しさが味わえるという面からすれば、乗り手にとってはむしろプラスだ。バックギアも備えているから、駐車場から乗り出すあのシーンも再現できる。 原作の姿をそっくり再現したといってもいい特徴的な外装は、C-FRP/FRP製のカスタムメイド。ワンボタンでポップアップするライトや、ハンドル手前に位置するデジタルコントロールパネル、そして跳ね上がるハンドルとフロントカウルといったギミックの再現も抜かりない。 こうして完成したBel&Belによる金田のバイク。ホイール周りのLEDを青白く光らせながら走る姿は、映画やマンガの中のそれに負けないくらいのカッコよさだ。