サッカー版クライマックスシリーズは実現すべきか
長丁場のリーグ戦の価値を残すために、90分間で引き分けた場合は上位チームが勝ち進むアドバンテージを設けた。結果は6位でプレーオフに進んだ大分トリニータが勝ち残る下剋上を成し遂げたが、準決勝は2試合とも1万人以上で埋まり、中立地の国立競技場で開催された決勝戦にも約2万7000人が駆けつけた。J2の試合では、なかなか達成されない数字だ。 日本人は下剋上という言葉を好み、弱者が這い上がっていく過程に興奮するのだろう。さらにはリーグ戦の最終節が近づいた段階で10チーム近くがプレーオフ進出の可能性を有していた点に、大東チェアマンも「リーグ戦の終盤も大いに盛り上がった」と成功を強調していた。 J1でクライマックス・シリーズが採用された場合の詳細は、現時点で何も決まっていない。何位までが進出できるのか。3チームならプロ野球と同じシステムになるだろうが、4チームとした場合は1位と4位、2位と3位でまず準決勝を戦うのか。上位チームへのアドバンテージはどのように設定すべきか。終盤まで順位が決まらなかった場合、スタジアムの確保をどうするべきか。 議論すべき点は多々あるが、これだけは言える。導入されれば日程的な問題で一発勝負となる「サッカー版クライマックス・シリーズ」は間違いなく盛り上がる。現時点における最大の懸案事項となっている、一般のファンの足をスタジアムへ運ばせるのに十分な魅力と面白さを持っている、と。 ナビスコカップ決勝や元日の風物詩である天皇杯決勝は、一発勝負ゆえの独特の緊張感と雰囲気とを常にスタジアムへもたらす。それらはピッチに立つ選手たちにも伝わり、必然的に白熱した試合が展開される。私自身、2つのカップ戦のファイナルで凡戦に遭遇したことがほとんどない。チケットも前売りの段階でソールドアウトとなるのがほとんどだった。
前出のJ2昇格プレーオフも、独特の雰囲気に支配された。 プロ野球にクライマックス・シリーズが導入された際には、中日ドラゴンズの落合博満前監督が「リーグ戦の価値がなくなる」と批判を展開した。J2と異なり、J1の1位チームがトーナメントを戦うことになれば、間違いなく同様の異論や反論が噴出するだろう。実際、戦略会議及び理事会のメンバーである浦和レッズの橋本光夫社長は、リーグ戦の開催方式変更に慎重な姿勢を崩さない。 「議論をせずに決めるのには反対ということ。こうなった原因をもっと検証して、手を打つのであればメリットとデメリットをしっかり議論しないといけない。変更ありきの話しではないよね、ということはずっと言い続けている。個人的な意見を言えば、サッカーはホーム&アウェー方式で年間王者を決めるのが最も公平なやり方。野球のようなやり方は、本来ならばやらない方がいいんだけど」 橋本社長の言う「こうなった」とは、観客動員数が減り続けている点に他ならない。スター選手や若手の海外流出が続き、テレビではヨーロッパの主要リーグやチャンピオンズリーグの試合映像があふれている中で、何らかの手を打ってリーグ戦の質を上げなければ先細りになってしまうという危機感はJリーグ及びJクラブ全体が共有している。 今後は7月9日のJ1・J2合同実行委員会で、今後の大会方式に関する是非が話し合われる。前出の中西本部長は「収入増と一般のファンを引き込む両方の施策が見つかれば現状の形式を維持することもありえる」とした上でこう続ける。 「FIFAランク50位以内のおよそ40%の国が、国内リーグにおいてポストシーズン制を採用している。だからいい、悪いではなく、ヒトとカネがヨーロッパに集中する中でどう戦っていくかが大事なんです」 現状維持を含めた4つのプランに、現時点で優劣はつけられていない。フラットな状態で提示されている中で、9日は合同実行委員会の開始時刻を2時間前倒し。4時間超のロングラン会議を厭うことなく、Jリーグの未来について徹底的に話し合っていく。 (文責・藤江直人/論スポ)