EURO史上最高ランクの決勝戦 名勝負が続いた2008年、スペイン黄金時代が始まった
【敗れたドイツも好勝負を見せた】 うるさ型のオランダ人記者を押し黙らせる独演ぶりは、日本人ライターの目にはこの上なく痛快に映った。監督たるものはこうでなくてはいけない。その理想型をヒディンクに見た気がした。 一方のオランダ代表監督、マルコ・ファン・バステンは哀れに見えて仕方なかった。バロンドールを3回受賞したスーパースターは、結局、指導者としては大成せずに終わった。名選手ではなかったヒディンクと対比すると、サッカー監督の本質はおのずと浮かび上がる。 決勝でスペインに敗れたドイツも好印象を与えた。ユルゲン・クリンスマンが率いた2006年ドイツW杯を機に攻撃的に転じたドイツは、ヨアヒム・レーヴ監督で臨んだこの大会ではその傾向がさらに加速。よい芳香を漂わせながらの準優勝だった。優勝したスペインとともに、明るい未来を抱かせたものだ。 決勝は自分のなかでサッカーのあるべき姿を見るような一戦だった。舞台はウィーンのエルンスト・ハッペル。名物はその脇にそびえる大観覧車で、映画『第三の男』の舞台として知られる。筆者にとってはアヤックスとミランが対戦した1994-95シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)決勝以来、13年ぶりの訪問だった。 ちなみにロシアに敗れたオランダは、EURO2008のグループリーグの3試合をベルンで戦っている。ドイツ国境にほど近いスイスの首都。オランダからも近い距離にある。 スタジアムの定員は3万人。それに対してベルンを訪れたオランダ人は、平日にもかかわらず10万人を数えた。入場可能な人数はせいぜい2万人。8万人は観戦できないことになる。だがオレンジ色に身を包んだ彼らはスタジアムまで行進。そして引き返してくると、市庁舎前の広場に集結。そこに設置された大スクリーンで試合の模様を観戦した。 彼らを市庁舎前広場に迎え入れたベルン市側のホスピタリティにも感心するが、観戦チケットもないのに8万人もの人が現地まで行くオランダ人に、それ以上に感心させられる。オランダサポーターはドイツを通過しなければベルンに辿り着かないので、ドイツ国内の高速道路は大渋滞だったという。
EURO2008の会場で特筆すべきスタジアムは、スイス・バーゼルの街中にあるサンクト・ヤコブ・パークだ。ミュンヘンのアリアンツ・アレーナを彷彿とさせる外観にも目を奪われるが、高齢者用の福祉施設併設型というコンセプトにはそれ以上に驚かされた。 どちらかといえば田舎にあるものと相場が決まっている老人ホームや高齢者用住宅を、町の真ん中にあるスタジアムの内部に取り入れてしまう。日本では絶対に湧かない発想である。東京では近々、国立競技場が民営化されるとのことだが、世界に誇れるアイデアを詰め込んでほしいものである。
杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki