<どうなる?2025年のアメリカ経済>トランプ大統領就任からの行く末を占う5つのチェックポイント
「劇場版政治」の経済への影響
2点目のチェックポイントは、トランプ新政権の「過激なポピュリズム政策」が必ずしも経済には良い影響を与えないという問題だ。今回、トランプ氏を当選させた巨大な民意の中心にあるのは、インフレへの強い不満である。したがって、トランプ氏としてはその民意にダイレクトに応えて行くには、アメリカにおけるインフレ退治をしなくてはならない。けれども、トランプ氏自身が既に予防線を張っているように、これは非常に困難な仕事である。 例えば、中国からの輸入品に高い関税を適用すればダイレクトに物価は上昇する。不法移民を追放すれば、農業やサービス産業を支えた労働力が消滅し、関係する物品の価格は跳ね上がるであろう。 そもそも、トランプ氏の支持者は、製造業回帰という政策を支持しているが、それは知的労働だけが優遇される現在に反発しているだけで、自分が製造業の職を求めているわけではない。また、不法移民を追放したいのは、自分の職が奪われているからではなく、不法行為をした人間への権利を認めたくないからに過ぎない。 ということを含めて、トランプ氏の政策はそれ自体がインフレ要因を内包している。けれども、世論はインフレ退治を望んでいることには変わりはない。
この矛盾した構造をそのまま正直に実行したのでは、合理的な政策運営は不可能である。結果的にトランプ政権は、一期目と同じように発言だけは過激な「劇場型政治」を続けつつ、過度に脱線した場合は正常運転に戻すなど、臨機応変な対応をせざるを得なくなるであろう。
AIは価値を生むか、ただのコストダウンか
3点目は、先端技術の動向である。輸送用機器に関しては、特に自動車の急速な電気自動車(EV)化は抑制されるかもしれないが、イーロン・マスク氏が政権内で存在感を維持するのであれば、EVが全否定されることにはならないであろう。また自動運転車(AV)技術に関しては、規制緩和の文脈からかえって進捗が進むかもしれない。 その一方で、米国経済の動向を左右するのはコンピュータを巡る技術革新の行方である。とりわけ人工知能(AI)に関しては、現在はシリコンバレーの各社は非常に前のめりになって実用化に走っている。トランプ政権はこうしたテーマに関しては、基本的に規制緩和の文脈で対応するであろうから、開発へブレーキがかかることはないであろう。 けれども、現時点でのAIの実用化というのは、準定型文書の自動作成であったり、文書の内容の要約など「中付加価値の知的作業の自動化」が1つの柱である。特に、概括的な目標達成を命令すると、AIが自動的に複数のタスクを組み合わせて、目標達成へ向けて活動する「AIエージェント」の実現が叫ばれている。これは新たな価値を生み出す効果になるか、それとも単にコストダウン効果を狙ったものに終わるか、持っていき方にもよるが、いずれにしても、基本的には雇用を縮小させる。 もう1つの柱は画像や動画の修正や創造という機能で、こちらもコストダウン効果が主となろう。そうなると、アメリカでは21世紀初頭から進んだデジタルトランスフォーメーション(DX)化が単純事務労働を奪ったように、AIは中付加価値頭脳労働を奪う中で、社会にはまた別の混乱が広まることが予想される。一方で、量子コンピュータなど天文学的な投資を必要とするプロジェクトに関しては、トランプ新政権は基本的に公費投入には消極的になるかもしれない。 そんな中で、爆発的な新しい価値創造にはなりそうもない中で、経済効果が限られるという見通しが広まれば、AIバブルが崩壊し、株式市場の低迷を招く可能性は否定できない。最悪の場合は2000年の「ITバブル崩壊」の再現ということもあり得る。