自分を主語にして話す、感情を言語化する...若者の“主体性”を育てる意外な視点
人手不足と言われる現代日本だが、新入社員の離職率はなかなか下がらない。「若者のコミュニケーション能力不足」などと言われて久しいが、「突然、出社しなくなる」「退職代行サービスを使う」など、その問題の中身は変化しているようだ。 【図】上司からの「有害なフィードバック」の特徴 本記事では、若者の就労支援を行う「地域若者サポートステーション」の取材から、ノンフィクション作家の石井光太氏が、「若者の『国語力』支援の最前線」に迫る。
ヒアリングと適性検査を通じて、自己分析を促す
職場でのコミュニケーションに困難を抱える若者たちの就労を支える地域若者サポートステーション(以下「サポステ」)。これを運営する一般社団法人「キャリアブリッジ」では、どのように若者たちのトレーニングを行い、就労へとつなげているのだろうか。 2022年度、このサポステに相談に来たのは、延べ125人に及ぶ。毎年男女比率はほぼ半々で、大卒・院卒が51%、専門卒が13%、高卒・中退等が26%。登録時の年齢は34歳以下が61%。就労経験は、正社員が51%、非正規が41%、未就労が8%である。 サポステでは、まずスタッフが相談者との面接を通して現状を把握し、本人が抱える課題を浮き彫りにしていく。だが、彼らが発する「ブラック」「パワハラ」「いじめ」という退職理由は必ずしも真実ではない。だから丁寧に彼らの物語に耳を傾ける必要があるのだ。代表理事の白砂明子氏は話す。 「うちに来る相談者は、自分を客観視することが不得意な人が多い印象です。何が得意で何が不得意なのか、それによってどんな困難があるのかといったことを言語化することができません。 だから、ブラックとかパワハラといった言葉を過剰に使って自己正当化をしたり、ミスをすることをすごく恐れたりする。そのため、うちではヒアリングに加えて適性検査などを行い、彼らの能力を数値にして見えるようにしています」 キャリアブリッジでプログラムの1つとして行われているのが、厚生労働省が作成した「一般職業適性検査」である。知能検査に似た簡単な設問が主で、指先の動きを調べる作業検査などもある。これによって、写真(※夜桜花子のグラフ)のように、本人が持っている能力特性(潜在能力)が細かく点数化される。 スタッフはこの数値を元に、ヒアリングで聞いた相談者の物語と照らし合わせて、「職場での人間関係がうまくいかなかったのは、あなたのこの特徴が関係しているかもしれませんね」とか「仕事で失敗したのは、仕事内容と、ここの適性にズレがあったからかもしれません」と示していく。 相談者たちも目の前に数字があるため、因果関係を把握し、自己分析ができるようになる。 むろん、この数値は本人に苦手なところを自覚させるためだけにあるのではない。同時に彼らが得意とするところを明示した上で、あなたの特性ならこの職業が合っているのではないか、この資格なら目指せるのではないかといったことを提案する材料となる。