「企業は社会の“器官”である」ドラッカーが指摘する、企業が果たすべき3つの役割とは?
では、同じ社会を構成する民間企業の目的だけが、組織の中の「利益をあげる」ということでしょうか。そんなことがあるはずがありません。企業も、病院や消防署と同じように、その目的は組織の外にある。つまり、企業も社会のために存在しているのです。「企業は社会に存在する人間組織である」という企業の本質から考えれば、企業には次の「3つの役割18 」があるとドラッカーは言います。 組織の目的と使命を果たす 生産性をあげる 社会的責任を果たす 企業が社会的存在である以上、まず果たさなければならない1番目の役割は、それぞれの組織の目的と使命です。自動車を作って売るということが目的と使命の企業は自動車を作って売る。ラーメンを作って売るということが目的と使命の企業はラーメンを作って売る。それぞれの企業にはそれぞれの目的と使命があります。 ただ、この「組織の目的と使命」は、ただ単に自動車やラーメンを作って売るといった単純なものではありません。ドラッカーは組織の目的と使命を定義することは極めて重要だとして次のように言います。 「事業の目的とミッションを明らかにしなければならない。『われわれの事業は何か。何であるべきか』を考えなければならない。(中略)事業の定義が明快に理解されないかぎり、いかなる企業といえども成り行きに左右されることとなる。自らが何であり、自らの価値、主義、信条が何であるかを知らなければ、自らを変えることはできない。(中略)事業の目的とミッションについての明確な定義だけが、現実的な目標を可能とする。優先順位、戦略、計画を可能とする19 」 「組織の目的と使命」は、すべての従業員の仕事の基盤でありスタート地点なのです。なお、この「自社の事業は何か」の検討については、後ほど詳しく説明します。 2番目の役割を「生産性をあげる」にしていますが、原書は “Productive Work and Worker Achievement” です。この原文が示すように、私が意訳した「生産性をあげる」にはもっと複層的な意味があるのですが、それは後ほど詳しく説明します。 ただ、「ドラッカー経営学の全体像を理解する」という点では、「生産性をあげる」の方がわかりやすいと思いますので、しばらくは「生産性をあげる」で説明していきます。 特に民間企業は生産性が低いと生き残っていけません。同じ商品やサービスを高い値段でしか提供できない生産性の低い会社は生き残っていけないのです。 18 Peter F. Drucker “Management: Tasks, Responsibilities, Practices” Collins Businessの第4章。原書で「3つの役割」を説明している箇所の小見出しとして使っている“Purpose and Mission”, “Productive Work and Worker Achieve ment”, “Social Impacts and Social Responsibilities”という3つの言葉を著者が意訳。 19『マネジメント 課題、責任、実践』P・F・ドラッカー著、上田惇生訳、(ダイヤモンド社)の第7章