「子どもが思いつきそうなアイデアですよね」究極の風力発電「台風発電」…台風を待ち望む日が来るのか
台風は謎だらけ……台風を知ることから設計は始まる
なんだかシンプル。これなら、すぐ作れそうだ。 「設計が決まれば、作ることは技術的にむずかしくないと思います。けれど、台風を知らなければ、設計を決めることができません」 台風には一つ一つ個性があるという。今回の台風7号のようにゆっくり進むものもあれば、あっという間に通りぬけていくものもある。寿命が短いものもあれば、すぐ消えてしまうものもある。現在、進路や勢力はある程度正確に予想できるようになったが、まだまだわからないことが多いのだとか。 「船をしっかりオペレーションするには、風だけではなく、波の状態も把握しなければなりません。けれど、台風のとき海面下がどういう状況になっているかデータがほとんどないのです」 台風発電船が走るのは、台風の暴風域の外側。どこをどう走らせれば、効率よく風を受けられるのかデータが必要だ。だが、中心気圧や勢力はわかっても、台風の一部分がどのような状態になっているかは、ほとんどわかっていないのだとか。 「どのくらいの風がどのように吹くのか、海面はどうなっているのか。それらがわからなければ、どんな船を作ればいいのかわからない。台風を知らなければ設計することができないのです」 満行准教授の専門は船のシステム設計。船の専門家からすると、台風が来たら船は逃げるのが当たり前。台風に向かっていくなんて信じられないことだという。縁あって、台風発電開発ラボに参画することになったが、そうでなければ、台風の中で船を走らせ、発電しようなんて考えもしなかったとのこと。 台風が生まれた場所と進路の関係、どこで生まれた台風が寿命が長くなるかなど、今、台風科学技術研究センターでは、台風についてさまざまな研究が行われている。 「ここだからこそ、台風発電船を作ることができる。2050年に社会実装できるよう、あと10年ぐらいで試作船を作りたいと思っています」 ◆船だから、台風で被災した地域に電気を届けることもできる オペレーションによって、どこにでも走っていける台風発電船。満行准教授には思い描いている活躍の場がある。それは台風によって被災し、停電になったところに電気を届けること。 「台風発電船のいちばんの特徴は動けるということ。この利点を生かすためには被災地で使ってもらうのがいちばんいいのではないかと思っています」 船の蓄電器からケーブルをつなげば、給電することができる。被災したところがなければ、洋上風力発電所などに蓄電しておいてもいい。「環境を利用して生活していかなければいけない時代がもう来ている。その一つのオプションになればいい」と満行准教授は言う。 さらに夢は広がって、 「台風が発生するフィリピン沖まで行って、そこで作った電気を必要な国に供給することもできるのではないかと考えています。国境などは考えず、困っているところに電気を届ける。そうあるべきだと思っています」 満行泰河 横浜国立大学総合学術高等研究院・台風科学技術研究センター台風発電開発ラボ長。船舶海洋システム設計工学研究室では船舶の設計やシステムの開発のほか、コンクリート製の浮体式洋上風力発電システムの研究、台風発電船の実現へ向けて研究している。 取材・文:中川いづみ
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