「世界的業績」を生み出すアーティストはなにが違うのか? 「ひとりでの練習量」と「練習する時間帯」に秘密があった
究極の鍛錬#2
何らかのことが「できる/できない」は天賦の才能によるもの、と考えている人は少なくないが、そこに異論を唱えるのが、20カ国以上で翻訳されたロングセラーの新装版『新版 究極の鍛錬』だ。 【画像】最高のバイオリニストはなぜ午前中に練習をするのか
モーツァルト、タイガー・ウッズなどの天才たちを研究した成果とともに、彼らに共通する要素「究極の鍛錬」を突き止めた本書より、1990年代初頭にベルリンで、バイオリニストを対象に行われた研究から世界的業績を生み出す人が持つ秘密を紹介する。
一流と二流を分けるもの
この研究の目的は、なぜある特定のバイオリニストが他より素晴らしいのかを明らかにするものだった。 当時、大変優秀な音楽家を輩出することで有名な西ベルリン音楽学校(大学の音楽課程)に研究者は赴いた。同校の卒業者の多くは実際著名な交響楽団やソロの演奏家としてキャリアを積んでいる。 研究者が同校の教授たちに、国際的なプロのソリストとして活躍しそうな最高のバイオリニストを指名するよう依頼した。 併せてトップグループほどには優秀でないものの大変上手なバイオリニストたちも被験者の候補にあげさせ、入学基準がより低い大学内の別の学部のバイオリニストたちも指名させた。 この3番目のグループにいる生徒は卒業後、通常一般の学校の音楽の先生となっていった。 研究者はこの学部からも同時に被験者を集めた。この結果、三つの被験者グループが集まったことになる(これからは「最高」「よりよい」「よい」と彼らの各グループを呼ぶことにする)。 研究者たちは被験者の選択にあたって、それぞれのグループが年齢(被験者となった生徒たちは20代前半であった)と性別でなるべく同じような集団になるように配慮した。 ・収集したデータ 研究者はすべての被験者の個人的データを収集した。たとえば、何歳で音楽の勉強を始めたか、どんな先生についたか、どんなコンクールに出場したかなど多くの情報を収集した。集められたデータは同校の教授が行った演奏者としての学生評価と一致する結果となった。 たとえば、「最高」のグループにいるバイオリニストは「よりよい」グループのバイオリニストよりもコンクールで成功することが多く、「よりよい」グループにいるバイオリニストは「よい」グループのバイオリニストよりも成功することが多かったのだ。 被験者は、演奏を始めて以来毎年一週間に何時間練習してきたかを算定するように指示を受けた。被験者は各自の活動に関する長いリストを渡され、それを音楽関連と非音楽関連に分け活動を書き込み提出するように指示された。 どの活動にどの程度の時間を最近費やしたか、それぞれの活動に通常一週間に何時間使ったか尋ねられた。 自分たちがよりよいバイオリニストになるために、それぞれの活動がどのような意味をもっているのか自己評価することも求められた。そして、いかにそれが楽しかったかも併せて質問された。 前日どのように時間を使ったのかも含めてより多くのことを一分単位で聞かれ、一週間あたりの日記も書くことを求められた。 日記は必ずしもいつも正確とは限らないので研究者がその内容をいろいろな方法を用いてチェックし、どの活動にどれだけの時間をかけ、申し出の内容が正しいかを確認するため、被験者と長い面談も行った。 その結果、膨大なデータの宝庫を得ることになった。素人がこのデータを見ると単に日曜日からのバイオリニストの生活や活動を13の方法で分析したものにすぎないというかもしれない。研究者の分析の結果明らかになった事実は、明瞭でかつ重い意味をもつものだった。