「世界的業績」を生み出すアーティストはなにが違うのか? 「ひとりでの練習量」と「練習する時間帯」に秘密があった
「一人で練習している時間」に劇的な差
多くの基準で三つのグループのバイオリニストはほとんど似通っていた。約8歳でバイオリンを始め、15歳のとき音楽家になることを決意している。 統計学的にみて三つのグループに意味ある違いを見つけることはできなかった。この研究が実施されるまでに被験者たちはすでに10年間バイオリンを演奏していた。 おそらくもっとも驚かされるのは、この三つのグループは週に同じだけの時間を音楽関連の活動に使っていたということだ。具体的には、個人レッスン、個人での練習、クラスでの授業で、一週間の合計時間は約51時間だ。 この基準で評価する研究者は三つのグループの間で統計上意味ある違いを見つけることはできなかった。 この三つのグループは、いずれも朝早く起き、何時間も費やし自分たちが求めたキャリアであるバイオリンに専心していた。それは他の多くの分野の人と同様に厳しい一週間の訓練だった。 どの活動が自分たちの上達に重要か、被験者にははっきりとわかっていた。それは自分で練習することだ。 12の音楽に関する活動と、10の音楽とは無関係の活動(家事や買い物や余暇など)の中で何がバイオリンの上達に重要かを評価するよう求められて、誰もが一人で練習することを一番にあげている。 生徒はみな知っていたが、全員が同じようにその大切なことを実行してはいなかった。一人で練習することの重要性は理解していたが、実際に一人で練習している時間は、3つのグループ間で劇的に異なっていた。 「最高」と「よりよい」グループは一週間平均で24時間。しかし、「よい」グループは週にたった9時間しか練習していなかった。
「究極の鍛錬」が世界的業績を生み出す
訓練のもつその他の側面を考慮するとき、この発見はさらに豊かな意味をもってくる。バイオリニストたちは「一人での訓練はもっとも重要な活動だが、もっともつらくおもしろくないものでもある」と明言している。 努力が必要になる活動の評価をしてもらうと、一人で練習することは仲間や一人で演奏を楽しむときに比べはるかにつらいと自己評価している。そしてもっともつらい一人の練習は、大変な育児よりもつらいとまで評価していた。 楽しさに関する評価では、楽しんで弾くことに比べ、一人での練習ははるかに低い位置にランクされている。もっともストレスが多く、またもっともおもしろくない活動と一般的には思われているグループでの正式な演奏よりも、一人での練習はさらに下の位置に評価されている。 一人での練習はとてもつらいため、たくさん練習するには自分の生活を特別な方法で調整する必要が生じてくる。「最高」と「よりよい」の二つのグループの場合、朝の遅い時間帯か、午後早い時間帯でまだ活力のあるうちに自分一人で練習している。 それに対して3番目の「よい」グループに属するバイオリニストたちは午後の遅い時間に練習している。それは彼らがもっとも疲れていると思われる時間帯である。 上位2グループは3番目のグループともう一つの点で異なっていた。上位のグループは下位のグループより夜長く寝るだけではなく、多く昼寝をする。一人での練習は消耗が激しく、体力回復には多くの休息を必要とするようだ。 個人でコントロールできるという意味において、音楽活動の中では一人での練習は特異である。レッスンを受けたり、授業に参加したり、演奏会をしたりすれば他人がかかわってくるので、制約を受けることになる。 一週間は168時間あるわけで、やろうと思えばほとんど限度なく自分一人で練習できるはずだ。しかし実際のところ、使える時間のほとんどすべてを練習に使おうとする人は、被験者の中には一人も見当たらなかった。 この調査結果をみるかぎり、上達するのにもっとも大切なことは自分一人で練習することだということを被験者はみな理解していた。しかし、一人での練習は簡単ではないし、おもしろくもないと思っていた。 実際一人で練習をしようと思えば、無制限の時間をもっていた。この点において三つのグループはみな同じだった。違っていたのは練習しようとした人たちがいたということであり、そして一人で多くの練習をした者がすぐれたバイオリンの弾き手であったということだ。 練習の効果は累積によって生まれる。この研究が実施された時点で「最高」と「よりよい」グループのバイオリニストたちはほぼ同じ時間量すなわち週に24時間練習していた。 これは単に「よい」グループのバイオリニストに比べ、圧倒的に多い練習量だが、上位2グループ間では練習時間に意味ある違いを見つけることができなかった。差がないということが問題を提起しているように研究者には思えた。 より多い練習がよりよい演奏を意味するなら、どうして「最高」グループが中間に位置するグループより多くの練習をしていないのだろうか。