不眠不休で帰ってきても、足を延ばせる風呂がない…令和の若者がそっぽを向く自衛隊官舎“老朽化” 「石破総理」も認識、しかし建て替えが進まない理由
自衛隊官舎に開いた穴
次は関東のある自衛隊官舎の例だ。 自衛隊は異動時に換気扇をもって移動しなければならないという慣習をご存じだろうか? 写真(3)の配管の上に四角いフタのようなものがある。これは入居者が入居後に自腹工事で蓋を取り付けた。ここは隊員が持ち込んだ換気扇が入る穴だった。マイ換気扇を設置しない場合は、換気扇を取り付けるためのこの穴を入居者がふさがないと、虫がはいってくる。最初はガムテープと段ボールで止めていたが、板でふさいだ。これもまた、官舎からの退去時に再び、修理し元の穴あき状態に戻さないといけない。 ガスコンロも入居後に新しく買った。マイ換気扇・マイガスコンロを入居者がもってきて、退去時に取り外す。持ってこない隊員は新たに買うか、このように工夫することになる。 この隊員はクーラーを使用するために、100Vから200Vへ電気工事をする必要があった。これも退去時にまた現状復帰のため工事費が発生する。入居する隊員に入居時と退去時に工事負担が発生する。
写真(4)の天井の照明に繋がる見慣れない配線がわかるだろうか? これをたどるとコンセントにいきつく(写真〈5〉)。コンセントから照明用電源を取っているのだ。もともと、傘なしの電球のソケットしかなかったところに、蛍光灯の照明をつけようと配線を付け替えたようだ。傘なし電球のソケットが今も釣り下がっているよりはマシだが、謎の配線をしなくても蛍光灯が付けられる住宅を整備できないものだろうか。
一般隊員の住む住宅内部
この二例のどちらの施設も、建て替えの話が以前からあった。予定はあるが実施されていない。2022年12月、防衛3文書が策定され、防衛整備計画に施設の強靭化の予算も組まれた。人的基盤強化のために生活環境・勤務環境の改善が明記されている。2027年度までに全駐屯地を対象に生活・勤務環境の改善が計画されている。 対して、米軍の福利厚生はどうなっているのだろうか。米軍では殆どが軍の敷地内に家族と一緒の住居を設置している。その家族が不自由しないように基地の中に病院や幼稚園、学校、スーパーマーケットなどのPXと映画やテニス、ゴルフ、フィットネスなどの施設がある。沖縄のように基地がたくさんある場合は沖縄本島内米軍基地すべてを巡回する無料の輸送バスがある。学校や映画館等の施設はほとんどが無料、もしくは激安価格で利用できる。外国に派遣されていても本国と同じ生活が軍人のみならず、家族にも提供される。国のために奉仕をしている人達に対して米軍は敬意をはらっている。 防衛省に本件について見解を求めたところ、以下の回答が寄せられた。 「防衛省においては、宿舎の「老朽更新」にこれまでも継続的に取り組んでいるところです。具体的には、リノベーションなどの宿舎改修により、計画的な老朽化対策を講じることで、住宅設備の更新を図り、居住環境を改善することとしています。今後も、このような取組みを進めていくことで、隊員及びその家族の居住環境改善に不断に努めてまいります」 自衛隊の人材不足は静かなる有事だ。戦争をしているわけでもないのに、入隊者は少なく、途中退職者は止まらない。定年延長で高齢の自衛隊員を残して見かけ上の人員充足率を保っているが、現実は悪化の一途をたどっている。自衛隊官舎にはこのような問題のある建物が今も多数、残存している。建て替え予定があると喜んでも実施されずに長年放置されたままだと、政府の国防への姿勢を疑いたくもなる。石破茂内閣のこの問題への対処を注視したいと思う。
小笠原理恵(おがさわら・りえ) 国防ジャーナリスト。関西外国語大学卒業後、フリーライターとして自衛隊や安全保障問題を中心に活動。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)がある。公益財団法人アパ日本再興財団主催・第十五回「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀藤誠志賞を受賞。産経新聞にコラム「新聞に喝!」を執筆している。 デイリー新潮編集部
新潮社