オフィスに響く怒号──「経営危機のブラックIT企業」が「残業月15時間のホワイト企業」化した改革の中身
競争力獲得のために「売り上げの2割の事業」に注力
プロジェクトXを経て、どうにか黒字化を達成したが、そもそも、なぜこのような苦境に陥ってしまったのか。理由は大きく2つあったと、同氏は見ている。 1つは、大口クライアントからチームごと社員たちを引き抜かれ、その分の売り上げが見込めなくなってしまったことだ。「僕らのサービスが強かったら、そこからでも回復できたはず」との反省が生まれた。 もう1つは、レバレッジのきくプラットフォームビジネスへの挑戦を繰り返してきたこと。新規事業に挑戦し、1~2年は好調に進むものの、3~4年経つとうまくいかず、撤退し、減損損失を出す──といったサイクルを繰り返していた。「どちらの要因も、競争力が乏しいことが根本的な原因だった」(同氏) では、どうしたら競争力のあるビジネスを作れるのか。競合他社の状況を鑑み、「業界内で強者のポジションを取れるところで勝負しよう」と考えたとき、Web運用事業に注力することに決めた。 当時の同社の売り上げの内訳は、ネット広告の代理店事業が約43%。Web構築事業が約35%で、残りの21%ほどがWeb運用事業だった(2008年度)。売り上げの2割ほどしかない事業への集中には、反対意見も根強かった。また、戦略の転換を求められた代理店事業やWeb構築事業には、長く残業し“モーレツ”な働き方をする社員が多く、納得できないとして辞職も相次いだ。 「ネット広告の代理店事業は、すでに強力なプレーヤーが多く、勝つことはできない。Web運用は『つまらなくて、地味で、低付加価値』に見える領域で、あまり競合がいない。そこをクリエイティブで、成果型で、高付加価値にしていくことを目指した」(同氏) 注力を決めたWeb運用事業で、競合他社に勝てる強みを作らなければならない。そのために、大企業を相手に数十人のチームを組んで運用する体制を整えた。 「同業他社の多くは大規模ではなく、数人の腕が立つクリエーターが複数の案件を回して成り立たせていた。単純に挑んでも勝てないが、大規模化して差別化した。チームで顧客のマーケティング成果を目標に据え、自ら提案し価値創出していくような企業はまれだった。 あとは品質向上のため、地道にミスを集計したり、課題管理リストを作ったりして運用スキームをためていった」(同氏) 事業への手入れと人事制度改革を並行して進めていった同社。数年後にはさらなる働き方改革で、ホワイト化を進めていくことになる。 2016年に掲げた「残業時間を50%減らしつつ、年収は20%アップ」という目標は、3年間でいずれも目標を上回る形で達成した。また、多くの上場企業が今なお実現できていない「女性管理職比率30%」を早々に成し遂げている。 掲げた目標を次々に達成できた訳とは? 後編記事「なぜ? 『残業が半減』したのに『年収27%アップ』──元ブラック企業が取った、思い切った施策」で紹介する。 (小林可奈)
ITmedia ビジネスオンライン