中国政府は「10万人の娼婦」を壊滅させたはずだったが…この10年で激変した「中国のセックス産業」の現在
■娼婦に求められる「東莞式ISOサービス基準」 東莞の娼婦の性的サービスも特別のもので、「東莞式ISOサービス基準」というものが実施されていたそうだ。 ISOとは「国際標準化機構」のことであり、同組織が定めた国際的に通用する規格をISO規格と呼ぶ。このISO規格に合致した製品は、世界標準であるということになる。 要するに、東莞の性的テクニックは、お客さんも100点満点をつける超一流のものだということを示すのが、「東莞式ISOサービス基準」であり、こうした呼び方で、店の経営者たちが誇るらしい。 店はサービスを受けた男性に採点用の調査票を渡し、満足度を十数項目にわたって調べていた。そこまで気を使っていたのだ。 ■30年近く続いた性産業の繁栄に終止符 中国ナンバーワンの色街として名を馳せた東莞市だが、いまではすっかり姿を変え、健全な街づくりを進めている。マイナスのイメージから脱却し、かつて賑わっていた遊郭の風景は消え去り、売春婦はどこにもいない。 2014年、警察は本格的な取り締まりを開始し、街の売春宿を徹底的に破壊した。30年近く続いた性産業の繁栄に終止符が打たれた。 東莞市が長い間、売春を容認してきた理由は何か。2014年になぜ、警察が大規模な取り締まりを行ったのか。一つの原因は、改革開放の初期は外資誘致を優先し、売春の問題をある程度容認していたことにある。
■政府要人と公安警察36人が処分された さらに、警察内部には売春組織と結託し、暴利を貪る者もいた。性産業の規模が東莞市のGDPの7分の1にも達していたため、腐敗警察や腐敗役人の資金源として狙われていたのだ。 当時、売春容疑のある店に対する通報も少なくなかったが、警察が現場に駆けつけると、すでに明かりも消え、店じまいされているようなケースも多かった。明らかに警察内部から情報が漏れていた。 2015年2月6日、中国公安部は記者会見を開き、2014年以来、全国の公安機関が取り組んできた重大な治安問題を紹介した。犯罪行為を厳重に取り締まったことで、全国で指定されていた134件の凶悪事件がすべて解決されたという。 東莞の売春問題も、警察の働きによって解決されたと発表された。売春に関わり職務を怠った疑いのある政府要人と公安警察36人が処分され、そのうちの17人は刑事責任を問われ逮捕されたという(「新聞晨報」〈上海市政府傘下の新聞〉2015年2月7日付)。 逮捕されたなかには、現地の公安高官もいたことは間違いない。 ■「新指導部の誕生」で性産業が壊滅 東莞市の性産業が壊滅した背景には、中国共産党の新指導部の誕生があるだろう。 2012年、習近平が中国共産党の総書記に選出され、新指導部が誕生した。同年、元中国共産党政治局常務委員で中国公安、司法のトップにあった周永康(しゅうえいこう)が職権濫用、収賄、国家秘密漏洩の罪および女性問題で逮捕された。 この事態が、2014年に東莞で売春ビジネスへの大規模な取り締まりが実施された一因であると思われる。 周永康は、長年、中国で生活していた筆者にとっても、非常に恐ろしい存在だった。彼は長い間、中国警察と司法の指揮権を握り、中国の法律を無視して多くの冤罪や法律違反の裁判を生み出していたからだ。 1976年に「四人組」が逮捕されて以来、政治局常務委員が逮捕されたのは周永康が初めてで、37年ぶりの出来事だった。