源氏物語54帖、教科書で人気な「帖」は? 67年分をめくって確認したら… データから見える変遷も
「桐壺」「若紫」「須磨」で全体の4割
67年分の掲載数は計1943件でした。多かった帖(巻)でみると、トップ3は「桐壺」(318件)、「若紫」(254件)、「須磨」(199件)で、この3巻で全体の4割を占めました。 「桐壺」は最初の巻。斉藤さんは「物語の始まりを紹介するためにやはり外せません。冒頭を読むだけでも、伊勢物語や竹取物語との違いが伝わります」と指摘します。 5巻の「若紫」は、主人公の光源氏が後に妻となる少女(紫の上)を垣間見ている場面が使われているといいます。 斉藤さんは「物語を読み解くための鍵が埋め込まれている巻で、主なあらすじを構成する重要人物を説明できる。ただ、それを踏まえても、思っていたよりも多い印象です」と話します。 3位の「須磨」は、漢籍の引用も多く、その文章の美しさが特徴だとして、「須磨の美しい景色の描写と光源氏の心情が合わさる『景情一致』を味わわせたいという意図が見える」と言います。
数を減らした「夕顔」「帚木」「蛍」
掲載巻の推移をみると、トップ3の「桐壺」「若紫」「須磨」は60年以上継続的に載っていますが、2010年代はその三巻により集中していく様子がわかります。 一方、1950年代半ばにトップ3に並ぶ掲載数だった「夕顔」「帚木(ははきぎ)」や、1980年代までは一定数掲載されていた「蛍」はその後、数を減らしていきました。 時代の変遷によって、掲載巻の増減がみられることについて、斉藤さんはそもそも教科書に載せる上で下記のような2種類の編集方針があると指摘します。 (1)主なあらすじから離れたり、女性論や物語論などが描かれたりしたものも含めアンソロジー的に幅広く集める (2)光源氏と紫の上の愛の物語といったように主なあらすじに沿ったテーマを集める その上で、「(1)よりも(2)が増えています。結果として、あらすじに直結する『定番化』巻の採用が増え、あらすじから離れた巻を採用する『冒険』が減っているとも言えます」と分析します。 公開されたデータについて、斉藤さんは「教科書に掲載されてきた『源氏物語』は多様なテーマが蓄積され、様々な問いを立てて考察したり、紙面の図版をたのしんだりすることができます。教科書を作り上げるためのさまざまな工夫、豊かなアプローチがデータから非常によく浮かび上がっています」と言います。 「教科書掲載データは、『源氏物語』の学び方におけるアイデアの宝庫とも言えるのではないでしょうか」と話しています。