「ウソだろ…」藤井聡太が“1対99”から大逆転、渡辺明は頭を抱え…“衝撃の王位戦”現地で何が起きていたのか「報道陣は“渡辺勝利”で待機していた」
7月6日から7日にかけて愛知県・徳川園で行われた将棋の第65期王位戦第1局。藤井聡太王位(七冠)と挑戦者の渡辺明九段による対局は、千日手指し直しの末、想像をはるかに超える激闘となり……。“灼熱の名古屋決戦”を現地取材した記者が観戦記を寄せた。(全3回の3回目/#1、#2へ) 【写真】「1対99からの大逆転」藤井聡太が苦しそうに天を仰ぎ、渡辺明は頭を抱え…“灼熱の王位戦”現地写真や「W藤井、望外の2ショット」「ファンへの神対応」も一気に見る(全100枚)
「詰みなんじゃないか」敗戦の覚悟を決めていた藤井聡太
王位戦第1局、指し直しの86手目。 藤井聡太王位は攻撃の切り札である龍を捨てて、渡辺明九段の陣形を乱しに行った。リスクを覚悟した上で敢行した、王者の踏み込みだった。 やや想定外のタイミングだったのだろう。詰むか否かのスリリングな攻防を余儀なくされたことは、持ち時間が尽きかけていた挑戦者の渡辺に小さくない動揺を与えたようだった。 「いきなり最終盤になるような展開になったんで……」と口にすると、「全然読めてはいなかったので、ちょっとまずいのかなと思っていた変化もあった。本譜は勝ちになったなと思ったんですけど、ちょっと詰みがわからなかったですね」と振り返っている。 ただここから渡辺は、王者を沈めるための勝ち筋を着実に手繰り寄せていた。玉一枚となりながらも猛攻を冷静にかわしていくと、100手目に藤井が繰り出した△3七金によって、渡辺の勝利は決定的なものとなった。AIの評価値が99対1と挑戦者の勝勢に傾いたのだ。 これは藤井の玉に詰みがあることを意味する。詳細を言うと「21手詰み」だ。正解が一通りだけという難解さはあったが、その道筋を渡辺が発見できれば勝ちとなる。 盤上には勝負所の緊張感が走る。 104手目からはお互いに1分将棋だ。それでも渡辺は姿勢を正し、落ち着いた手つきで指し続けた。傍目には詰みまでを読み切ったかのようにも見えた。 一方で、藤井は自分に勝ち目がないこと、つまり渡辺の玉に詰みがないことを認識し始めていた。同時に、自らの玉に詰みがあることも見えていた。 額や頬に手を当てながら盤上を見つめ、片手で顔を覆うような仕草で時折うつむく。「先手玉は詰まないと思ったので」と認め、その後に起きた攻防を指して「▲6一飛車成りに、△4一銀。そうですね……。▲同龍と切られたら詰みなんじゃないかなと思っていました」と敗戦の覚悟を決めていたことも局後に明かした。 終局が近づいたことで、報道陣にも動きが生まれた。別館の控え室を出て、対局場のある建物の前で待機するように関係者から誘導される。時刻は20時半過ぎ。すっかり陽は落ちていたが、外はまだ蒸し暑かった。
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