サムスングループがモデル。史実を交え、転生した男の復讐を描くソン・ジュンギ主演ドラマ「財閥家の末息子~Reborn Rich~」
こんなにも魅力的な財閥1世を演じた俳優がいただろうか。U-NEXTで配信が始まった「財閥家の末息子~Reborn Rich~」(2022年)のイ・ソンミンのことである。財閥スニャンの創業者チン・ヤンチョル会長の円熟期から最期までを演じた。 【写真】圧倒的なカリスマ性の中に見え隠れする繊細さ 「財閥家の末息子~Reborn Rich~」イ・ソンミンの名演技場面写真
切り捨てられ殺され、転生した男の復讐劇
あらすじはこうだ。ソン・ジュンギが演じるユン・ヒョンウは、国内一の財閥グループ「スニャン」の未来資産管理チーム長。肩書からは想像できないが、実際は経営者のチン一族の尻ぬぐい係だ。しかし、学歴もコネもなく、長らく失業したままの父親と弟を養うため、スニャンに忠誠を誓うしかなかった。 ヒョンウはグループの隠し資産を回収するために海外行きを命じられる。しかし渡航先で突然、スニャンの誰かによって拉致され、銃殺される。目を覚ますと、1987年の韓国にいた。ヤンチョルの孫チン・ドジュンの姿になって。 電子と半導体を中核事業とするスニャンは、この時すでに国内一の財閥グループ。ヤンチョルの元で、華麗なる一族が跡目争いを繰り広げていた。父親に頭が上がらないパッとしない2世たち、そんな親を軽蔑する不気味な3世らだ。 ドジュンの父親はヤンチョルが愛人に産ませた末息子。兄が1人いるドジュンは、文字通り一族の〝末っ子〟だった。 ドジュンに転生したヒョンウは、汚い仕事でもなんでも引き受けていた自分を裏切り、殺したスニャン一族への復讐(ふくしゅう)を誓う。 時代は、軍事政権が幕を閉じ、民主化の夜明け。激動を乗り越えるべく思案するヤンチョルに、歴史を知るドジュンは、あるアドバイスをする。ドジュンの見立ては見事に的中し、ヤンチョルの信頼と尊敬を得る。これまで一族の誰からも見向きもされなかった愛人の子の末っ子ががぜん、存在感を示す。
サムスン創業者のエピソードが全編にちりばめられる
お気づきの人もいるだろう。スニャンのモデルはサムスンだ。そして、ヤンチョルはサムスンの創業者イ・ビョンチョル。精米所からスタートしたことや、自動車分野では失敗続きで、ライバルのヒョンデ(現代)に勝てなかったことなど、イ・ビョンチョルの自伝と重なるエピソードが全編にわたってちりばめられている。 民主化後の韓国とサムスンの歩みが本作のバックボーンだ。映画「タイタニック」(97年)に投資するために訪れた米ニューヨークでのフィルムマーケット。ここで歌手志望のドジュンの兄ヒョンジュンが放つセリフが感慨深い。 「夢のまた夢だろうね。いつか韓国映画がハリウッド映画を相手にアカデミー賞で作品賞を……。SF漫画のようで考えただけで胸が熱くなる」「韓国人歌手がビルボードで1位になると? サッカーW杯でベスト4入りするくらい難しい」 21世紀を知るドジュンは、未来を的確に予測する兄を驚いた顔で見つめる。ドジュンの表情の意味をヒョンジュンは正反対にとらえ、「分かってるよ。夢くらい見させろ。夢はいつかかなう」とおどける。 まだ経済協力開発機構(OECD)への仲間入りも果たしていなかった韓国。アジアの小さな半島のポップカルチャーが世界を席巻する日が来るなんて、当時は想像できなかったのだろう。 他にもアマゾンの台頭、2000年問題、ITバブル、米同時多発テロなど重要な出来事が次々と出てくる。未来から来たドジュンは、記憶を手繰り寄せ、史実を〝先読み〟してうまく立ち回る。