サムスングループがモデル。史実を交え、転生した男の復讐を描くソン・ジュンギ主演ドラマ「財閥家の末息子~Reborn Rich~」
創業者役を演じたイ・ソンミンの魅力がスパーク
しかし、この物語の主人公はドジュンではなく、ヤンチョルだと思う。ヤンチョルを演じるイ・ソンミンの魅力に尽きるドラマだ。 一代で巨大財閥を築いたヤンチョルは、政治家に圧力をかけ、検察とつるみ、時には相場操縦や裏金づくりに手を染めて巨大財閥を作り上げた。彼の動向一つで、人々の生活は左右された。ヤンチョルとスニャンは、この時代の韓国の庶民の生殺与奪権を握る存在だった。 ヒョンウの両親は、スニャンに翻弄(ほんろう)された被害者たちの氷山の一角だ。ヒョンウだった前世では、アジア通貨危機で父親の会社が倒産。スニャンが買収するが、全社員の雇用が維持されず職を失う。母親はショックで心臓発作を起こして亡くなる。 生まれ変わった世界では、運命を変えようとするドジュンの働きかけで、父親の会社の雇用維持が約束される。しかし、母親は自殺してしまう。生活苦から抜け出そうと、スニャンのグループ会社に投資したが、投資先が倒産したことを苦にしてのことだった。ドジュンは、倒産がスニャングループによる計画的なもので、不当に株価をつり上げていたことを突き止める。 ドジュンにとって、ヤンチョルは親のかたきだ。現世では直接、前世では間接的に両親を苦しめた。生まれ変わった当初は、前世で自分を殺した人間を標的にしようとしたが、怒りの矛先はヤンチョルにも向くようになる。 ここまではよくある復讐劇だろう。しかし、このドラマの肝は、ドジュンがヤンチョルを憎み、反目しながらも、ひそかに憧れ、同情し、最後は哀れむところにある。自分の親を追い詰めた張本人だと知りながら、病で死を前にしたヤンチョルを喜ばせるために奔走する。 ドジュンはなぜヤンチョルのためにそこまでするのか。最後まで言葉による明確な説明はない。だが、その必要もない。なぜなら、ドジュンにそうさせるだけの魅力がヤンチョルにあるからだ。 韓国一のグループ会社の会長でありながら、唯一の〝失敗〟である車づくりの夢を持ち続けたり、裏切りは許さないと公言しつつドジュンや息子たちの背信行為を大目にみたりする。そして、後継者選びに頭を抱える中で、家族でただ一人面と向かって自分に反抗するドジュンが、自分に最も似ていると認めた時。「そんなはずはない」と否定したい気持ちと、「やっと戦友を見つけた」と言わんばかりの興奮が入り交じった表情をする。 圧倒的なカリスマ性の中に見え隠れする繊細さ。子や孫に対するよりも自分に最も厳しいのは、裸一貫で出発した、正真正銘のたたき上げならではのことだろう。 イ・ソンミンは、そんな豪胆で謙虚な創業者の心の機微を余すところなく演じた。ドジュンの行動に違和感を抱くことなくストーリーを追えたのは、私たちもヤンチョルに魅了されるからだ。