〈東京メトロ上場へ〉なぜ、今やっと行うのか、遠のいた都営との一元化の行方は?
都が地下鉄一元化を図る理由
これに対して都は、株式の売却は進めなかった。その大きな理由は、石原慎太郎知事(当時)らがメトロと都営の一元化を主張したためだ。 現在、乗り場が分かれ、改札を隔てる都営とメトロが一元化すれば、利用者の利便性が上がり、乗り継ぎ料金が値下げになると、都は主張していた。ただ、都営大江戸線の建設により得た赤字を今でも持つ都営は黒字経営のメトロと合併することは難しく、動かずにいる。 昔、鈴木俊一知事も一元化を国に対して熱心に働きかけていた時代もあり、メトロと都営の一元化は都の悲願でもあった。国が株式を売却すれば、都が買って持分割合が変わってしまうことから、国も売却へと動けない状況が続いた。
状況を変えた有楽町線と南北線の延伸
ところが、国と都がメトロの民営化をめぐって対立している間に、有楽町線の豊洲から東西線の東陽町を通って半蔵門線・都営新宿線の住吉に至る地下鉄8号線延伸が重要な都市計画上の課題として浮上した。 コロナ禍前に、東西線の木場と門前仲町との間が全国一の混雑区間となり、それを解消するために木場のひと駅手前の東陽町で南北に乗客を乗り換えさせる地下鉄8号線延伸は効果的と考えられる。またこの東部一帯はほかに南北方向の交通機関が欠けている。 都としてのまちづくりや、乗客の利便性を高める延伸なのだが、建設費用は莫大で、国や都からの支援がないとできない。国はメトロ民営化に協力的ではない都が望むメトロ延伸事業への支援を渋った。 そうこうするうちに、東海道新幹線停車駅でありリニア中央新幹線発着駅である品川駅に白金高輪駅から南北線を延伸させて、初めて品川駅にメトロが乗り入れる構想が浮上した。 さらに、都としては、2020年五輪(開催はコロナ禍によって2021年)の主要会場(五輪後はスポーツのほかイベントやエンターテイメント等に活用)や選手村(五輪後は主として住宅群に転用)など従来の東京都心に欠けていた多くの都市機能が立地するようになった臨海部の地下鉄建設も優先的な課題となっていった。 しかし、東西線の混雑解消や東京東部地区の交通過疎を解消する有楽町線の延伸や重要な交通結節点である品川駅とメトロを結ぶ南北線の延伸を後回しにして臨海地下鉄を先に推進することはできない。 この二つの路線の建設を進めるために、東京メトロが上場によって半分民営化することによって、国と都の資金拠出を実施できるようになったのである。