うつ病を見逃さないための注意点【不登校専門クリニックから見た最前線】
◇身体症状に注意を払う
Karthikaらの研究では、子どものうつ病が身体症状として表れることがあると指摘されています[2]。これらは、まさに不登校児童の多くによく見られる初期の兆候として一般にも知られているものかもしれません。 ・慢性的な頭痛 ・原因不明の腹痛 ・全身の倦怠感 ・めまいや吐き気 これらの症状が継続的に見られ、身体医学的な評価で原因が特定できない場合、うつ病の可能性を考慮する必要があります。
◇多角的な評価を行う
渡部京太氏の研究では、うつ病の診断には多角的な評価が重要であると指摘されています[3]。以下のような評価が推奨されています。 ・詳細な問診(本人、家族、教師からの情報収集) ・心理検査(うつ病スクリーニング尺度の使用など) ・必要に応じて身体的検査 子どもからだけ、もしくは親からだけの聞き取りでは情報量が足りないことが多く、いろいろな情報を総合してうつ病の見逃しを防ぐ必要があります。また、医師の経験値も非常に重要な要素と言えるでしょう。
◇うつ病による不登校児童生徒への支援
うつ病が背景にある不登校児童生徒への支援は、単なる登校刺激だけでは不十分です。うつ病自体への適切な治療と並行して、総合的なアプローチが必要となります。この複雑な問題に対処するためには、医療、教育、家庭の連携が不可欠です。 まず、医療機関との連携が極めて重要です。ここまで述べてきたように、クリニックを受診するレベルの不登校児童生徒の多くが何らかの精神疾患を抱えており、その中でもうつ病は最も多いものの一つです。学校や関係機関は地域の児童精神科医や心療内科医との連携体制を構築し、うつ病の疑いがある場合は速やかに診察を受けられるよう支援する必要があります。 医療機関での診断を受けた後は、適切な薬物治療とともに心理的な支援も行います。認知行動療法的アプローチも有効とも言われています。Kearneyらの研究では、うつ病を伴う不登校児童生徒に対する認知行動療法の有効性が報告されています[3]。スクールカウンセラーや専門家の指導の下、認知のゆがみを修正する練習や、小さな目標設定による達成感の積み重ねなどを行うことで、児童生徒の心理的な回復を支援できるとされています。 こうした医療・心理的サポートと並行して、学校でのサポートも必要です。Finningらの研究によると、うつ病による不登校からの復帰には段階的なアプローチが有効とされています[7]。別室登校から始め、徐々に教室での滞在時間を延ばしていくなど、児童生徒の状態に合わせた柔軟な対応が求められます。この過程では学校環境の調整も重要です。また田中恒彦氏が示すように、うつ病の子どもは学業のプレッシャーや対人関係のストレスに苦しむことが多いため[4]、学習内容や課題の量の調整、いじめ防止のための心理教育、教職員への適切な対応方法の指導などを通じて、安心できる学校環境を整えることが大切です。 もちろん、医療や学校だけでの支援には限界があります。家族の理解と協力も不可欠です。Karthikaらの研究では、うつ病による不登校の改善には家族の理解と協力が重要であることが指摘されています[2]。保護者に対する心理教育や家族カウンセリングの実施、利用可能な社会資源の情報提供などを通じて、家族全体をサポートすることで、より効果的な支援が可能になります。 このように、医療、教育、家庭の連携を基盤とし、適切な薬物療法、認知行動療法、段階的な学校復帰プログラム、環境調整、家族支援、多職種連携といった多様なアプローチを組み合わせることで、うつ病による不登校児童生徒の回復と学校復帰を効果的に支援することができます。もちろん、各児童生徒の状況は異なるため、個別のニーズに応じて柔軟に対応することが重要です。また、回復には時間がかかることを理解し、長期的な視点で支援を継続することが求められます。