全仏前のジョコビッチ戦で錦織が得たもの
6-2 4-6 7-6(5)。ローマ・マスターズの準決勝は、錦織圭にとって昨年10月以来の逆転負けだった。 相手は王者ノバク・ジョコビッチ。第1セットを取ったときの勝率が95.9%という史上最高の数字を誇り、過去1年間に限れば98.8%…80試合中1試合しか負けていないジョコビッチを倒すためには、とにかく第1セットを取らなくては話にならないという見方が出来上がっている。錦織はそこをまず突破したのだ。それも、ジョコビッチが「手の打ちようがなかった」というほどの完璧なプレーで。錦織も第1セットを取ったときの勝率は過去1年で97.6%と高く、一昨年の全米オープン以来となる勝利への扉は大きく開かれたかのように思われた。 しかしジョコビッチにはもうひとつ、トップを誇る数字があった。逆転勝ちの確率だ。過去1年間で50%。5割に達しているのはツアーでただ一人である。第1セットを奪われるケース自体が滅多にないため、5勝5敗という分母の小さいデータではあるが…。 今回の錦織からの勝利によって、第1セットを落としたときでも勝ちが負けを上回ったが、スコアが示す通りの大接戦だった。総獲得ポイントは112対111。テニスの場合、総獲得ポイント数と勝敗は必ずしも一致しないが、ジョコビッチがわずか1ポイント上回ったという結果は、この試合の印象を明白に物語っていた。 〈完璧〉な状態の敵にも必ず隠れている小さなほつれに目を凝らし、そこに爪の先をひっかけるように、チャンスの糸をたぐり寄せる。どんなに苦戦しても、ここぞという重要なポイントだけは逃がさない。細心で獰猛なこの強者をどうやって倒すのか------。 1年前の同じローマでジョコビッチからセットを奪った錦織だが、それから半年後のツアーファイナルズでは1-6 1-6で完敗した。多くの選手に追われる存在となり、久々に挑戦者の立場を得て、試してみたいことが山ほどあって気負いが空回りしたのかもしれない。その半年の間、ジョコビッチはもとより〈ビッグ5〉とほとんど対戦しておらず、全米前のモントリオールでアンディ・マレーにストレート負けしたのが唯一。 敗れても、頻繁に上位と対戦しているということは大切で、ジョコビッチと半年ぶりに対戦したツアーファイナルズのラウンドロビンでは、そのあとロジャー・フェデラー相手に、錦織自身が「自分のテニスが戻って来たのを感じた。楽しかった」と振り返ることのできる試合にたどり着いた。