吉沢亮の面白CMのウラに東北復興への思い…「いったい何屋さん?」アイリスオーヤマがお米に手を出した背景
■ただモノを送るのではなく経済循環に、だが食品参入には大きな壁
そんな奮闘の日々の中、取り組み始めたのが精米事業だった。 「東北は日本有数の米どころとして有名ですが、とくに沿岸部は津波によって多大な被害を受けてしまいました。まずは、田圃を整えるところからスタートしなければならないし、作っても売る場所がない。とくに福島は風評被害も懸念されていました」 地元の企業として、どうすれば東北の第1次産業の復興に貢献できるか。そこで同社が行ったのが、地元の農業生産法人と手を組み、精米事業に参入することだった。 「ただ商品を全国に送るだけでは、復興には結びつきません。生産者に安心して作り続けてもらえるよう、私たちが契約農家の米を全量買い取り、検査もしっかり行い、販売ルートも確保する。そういった経済循環を作ることが必要と考え、本腰を入れて取り組むことに決めました」 米農家にとって、全量買い取りは安心して生産活動に取り組める最大の担保。さらに、全国のスーパーマーケットやホームセンターなど、販売チャンネルの多さも希望となっただろう。とはいえ、同社にとっては初の参入なだけに、すぐにうまくいったわけではなかった。 「それまで食品はほとんど扱っていなかったために、業界からは『本当に食品事業に参入するの?』という声もいただきました。食品販売店への導入は苦労したこともありました」 被災企業が地元の農家と特産品を守るために尽力する…という復興支援物語は、消費者への大きな訴えとなる。この取り組みを業界に知らしめるためには、現在のようにCMを活用すればよかったのでは?と考えてしまうが、なぜ当時、声高にアピールしなかったのか。 「心に傷を負っている方々がたくさんおられる状態でしたし、私たち自身も生産者と一緒にどうやってお米を作り、全国に届けるかを模索している最中だったので。とにかく、美味しい、安全であることを訴えるために、販売店の方々にテストで食べていただくなどして、地道に販路を広げることに注力しました。スーパーマーケットやホームセンターなどの理解を得て、軌道に乗るまで3年くらいかかりました」