音楽と演劇の関係を対等に、「リビングルーム」上演に向けて岡田利規が神戸で会見
2月に兵庫・神戸文化ホールにて上演される「チェルフィッチュ×藤倉大 with 神戸市室内管弦楽団アンサンブル『リビングルームのメタモルフォーシス』」に向け、昨日12月20日に神戸文化ホールにて取材会が行われ、作・演出を手がける岡田利規が登壇した。 【画像】岡田利規(他8件) 「リビングルームのメタモルフォーシス」は、昨年5月にオーストリア・ウィーンのHalle G im MuseumsQuartierで初演され、今年東京でも上演された音楽劇。賃貸契約の一方的な破棄により、住む家を追い出されそうになる家族の物語から、人智の及ばない強大な力がその問題自体を舞台上から消すという劇世界が展開する。神戸文化ホール 開館50周年記念事業の一環として行われる今公演では、神戸文化ホールを拠点に活動するオーケストラ、神戸市室内管弦楽団のメンバー7名からなるアンサンブルが出演する。 まず岡田は、創作の経緯について説明。「ウィーン芸術週間の方から音楽劇を作ってみないか、とお話をいただき、せっかくなので新しい音楽劇を作りたいと思いました。新しい、というのは、“今の自分の関心ごとにつながるような形で、演劇と音楽の関係が新しい結びつけ方はないか”ということで、その“今の自分の関心ごと”の1つが、どうしたら演劇が人間中心的なあり方を超えたところ、もっと外側にあるものに届くことができるかということでした」と話す。続けて岡田は「演劇を構成するもののメインは人間、つまり俳優で、扱う内容も人間が社会の中で問題だと思っていることを題材にしている場合がほとんどです。でも人間の外側にも世界はあり、宇宙があります……と考えて、本作では音楽を、登場人物の心情やその人が置かれている境遇を彩ったり増幅させるのではない形で扱う、音楽劇にしたいと思いました」と話した。藤倉大は、そんな岡田の思いに対し「興味関心を持ってくれた人」だと言い、「作品を構想したり、実際に一緒に作っていく中で、藤倉さんとのやり取り、関係性、コラボレーションがすごく面白かった。上手くいった、と思っています」とクリエーションを振り返った。 会見では藤倉からのビデオメッセージも紹介された。藤倉は「岡田利規さんと何回もワークショップを重ねてこの作品を作ることができ、とてもうれしいです」とあいさつ。そして「コラボレーションと言っても、僕は大変自由な感じでできました。2人でいろいろ提案し合ったり、役者さんたちと意見交換したり、稽古の過程でふと違う曲を作ってみたり、一度作った音楽を無しにしてみたり……音楽と演劇がフィフティフィフティの関係で試行錯誤できました。本当に、最初から最後までクリエイティブに、気持ちの良いコラボレーションができたと思います」と稽古を振り返った。また自身が大阪出身であることから神戸には親近感があると言い、「神戸で僕の音楽が演奏されるのはうれしいです」と述べつつ、「今回はこれまでのクリエーションの過程やプロジェクトの背景を知らない演奏家たちが演奏してくれます。楽譜の力が問われるところだと思うので、上手くいくといいなと思っていますし、作曲家として、意味のある上演になると思っています。皆さん、楽しんでください!」と笑顔を見せた。 藤倉のコメントを受けて岡田は「この作品は、演劇でもあるんですが、“演劇パフォーマンス付き演奏会”でもあるんです。音楽は演劇パフォーマンスのバックグラウンドではないので、この作品では演奏家が舞台の前方にいて、後ろでパフォーマンスが行われます。藤倉さんもおっしゃったように、音楽と演劇の関係がフィフティフィフティであることを目指して創作してきましたが、上演を体験してくれたお客さんの中でも、演劇と音楽のボリューム感がフィフティフィフティであるといいなと思っています」と話した。 本作では、セリフや音楽がない、“無”の状態で行われるパフォーマンスシーンも印象的だ。楽譜と戯曲の関係について問うと、岡田は「本作はいくつかの曲で構成されていて、それぞれの曲の始まりや終わりのきっかけについては、指示が書かれています。ただ、セリフが楽譜の決まったところで必ず終わるわけではないので、例えば楽譜上では、まだ最後まで弾き終わっていないのだけれどもセリフが終わってしまったので演奏をやめるとか、逆に弾ききってしまったけれどセリフが終わっていないのでもう一度演奏を繰り返す、あるいは終わったままでいる、ということが本作では起こります」と説明。では、回ごとに違いはあるか?と尋ねると、「あったと思います」と返答しつつ、岡田は「クラシック音楽の人たちはスピードに敏感なので、ミュージシャンの方たちが『今日はなんだかすごく早かった / 遅かった』と言ってるのに対して、こちらはまったくそれを感じてない、ということはよくありました(笑)。そのズレが面白かったですね」と話した。 また近年、美術や音楽など、演劇以外のジャンルとのコラボレーションが続いている岡田。そのことにより、“言葉の持つ力”について改めて感じていることはあるか?と記者が尋ねると、岡田は「言葉はすごく強いと思っています」と返答。「例えば音楽を聴いていても、そこに言葉が加わると、言葉の意味や、その言葉によって引き起こされる連想などに簡単に意識が奪われてしまって、音楽が聴こえなくなってしまう。そういう意味で、言葉は強いと思います。ただ僕は、人が音楽を味わうときの関係性を、言葉によって奪おうとしているわけでは断じてなく、言葉が入ることによって、人と音楽の間に新たな面白い関係性を生み出すことができないかということを考えていて。『リビングルーム』もそれを考えて作った作品の1つです」と話した。一方で、「演劇における言葉に関しては、舞台上で言葉が発せられたとき、観客がその言葉を額面通りに受け取る、ある意味“真に受けて聞く”必要があります。しかし昨今、メディアなどを通じて“社会的に重要とされる人物”の言葉を聞くと、私たちはその発言を額面通りに受け取るのではなく、『その言葉を言うことによって、この人は何かを交わそうとしているのではないか?』というように受け止めることがしばしばあります。言葉がそのように機能してしまっていること、人が言葉とそのような関係しか持てなくなっていることについて、僕は危機感を持っています」と語った。 なお本作の神戸公演に向けて、神戸出身で岡田とも親交がある森山未來がメッセージを寄せた。森山は「岡田さんとはこれまでにさまざまな形でご一緒させてもらっていますが、近年ではNPO法人DANCE BOXの『国内ダンス留学@神戸』での講師としての参加や、森山がメインキュレーターを務めさせていただいたアートイベント『KOBE Re: Public Art Project』(2023年2~3月)では、作・演出の一人芝居『あなたが彼女にしてあげられることは何もない』(主演:片桐はいり)をいくつもの喫茶店で上演していただくなど、神戸との関わりも多い方です」と岡田を紹介。そして「岡田さんの音楽劇を神戸市室内管弦楽団とのコラボレーションで観られるのは、もちろんここ、神戸文化ホールでだけ!」とアピールした。 森山のメッセージを受けて、岡田は神戸との関わりを振り返りつつ「僕が好きなのは、神戸は山と海の距離がすごく近いところです。最初にそのことに気付いたとき、びっくりしました。今作の滞在中にも、神戸の山と海を感じる時間が取れたらいいなと思っています」と話した。 「チェルフィッチュ×藤倉大 with 神戸市室内管弦楽団アンサンブル『リビングルームのメタモルフォーシス』」は2月1・2日に行われ、出演者には青柳いづみ、朝倉千恵子、石倉来輝、川崎麻里子、矢澤誠、渡邊まな実が名を連ねている。 ■ チェルフィッチュ×藤倉大 with 神戸市室内管弦楽団アンサンブル「リビングルームのメタモルフォーシス」 2025年2月1日(土)・2日(日) 兵庫県 神戸文化ホール 中ホール □ スタッフ 作・演出:岡田利規 作曲:藤倉大 □ 出演 青柳いづみ / 朝倉千恵子 / 石倉来輝 / 川崎麻里子 / 矢澤誠 / 渡邊まな実 演奏 神戸市室内管弦楽団アンサンブル:高木和弘 / 西尾恵子 / 亀井宏子 / 伝田正則 / 上田希 / 赤土仁菜 / 法貴彩子