コレステロールが不足すると、認知症にも鬱病にもなりやすい【柴田博×和田秀樹⑤】
病気を減らすという点では、薬よりも栄養のほうが効果はある
柴田 僕はね、医者の立場と栄養学の立場と、両方でやってきたんですけど。1980年より前、栄養学者たちが食品の機能に注目し“機能性食品”を開発し始めたんです。東大名誉教授の藤巻先生が中心になって。これに医学者たちが猛反対したんです。「機能を持っているのは薬だけだ」ってね。 和田 いかにもな話ですね。 柴田 そこで「機能性食品」ではなく「特定保健用食品」という言葉に置き換えた。でもそれが認められるには、厳密な審査でした。 和田 いわゆる特ホですね。 柴田 1991年に厳しい審査をクリアして市場に出ました。ところがそれが一変したんです。 和田 機能性表示食品ですね。 柴田 そうです。2015年、会社の責任において「こういう機能がある」と言えることになった。 和田 日本の食品経済を上げるのだと、アベノミクスの一環として登場してきた政策です。 柴田 あれだけ議論を重ね、機能も精査していたのに、それが一気に吹き飛んで、勝手に機能を表示していいことになった。 和田 何のチェックもなし。 柴田 そのぐらいね、日本の行政ってインチキなの。 和田 薬の問題も国民全体が考えたほうがいいですね。例えば、病気を減らすという点では薬よりも栄養のほうが効果はあると言えます。心筋梗塞を3割減らした薬はないけど、食事を変えるだけで4分の1に減るわけですから。 柴田 医療だけで健康にはなれませんからね。 和田 お金で考えるとわかりやすい。毎月給料からすごい金額の保険料を引かれますが、それは薬剤費が高過ぎるからです。日本全体で7兆円とか9兆円。7000万人の社員がいたら一人当たり年間10~13万円の薬剤費を使われていることになる。薬が半分に減ったら、年間5~6万円の手取りが増える計算になるんですよ。 柴田 薬を減らして栄養をよくすればいいんだけどね。
和田 柴田先生はそのために何十年も闘ってきました。 柴田 そうなんですよね。 和田 本来なら、柴田先生のような人がどこかの教授になって老年医学のリーダーになるべきなんだけど。残念なことに現状は、老人なんて診たことがない人が老年科の教授になっていたりします。だから老年医学が発展していかないんですよ。 柴田 医学部は日本で80以上あって、その中の20ぐらいまで老年医学が広まったんだけど。今はどんどん減って10に近いんじゃないかな。 和田 老年科を作っても役に立たないから減るんですよ。薬を減らすとか、栄養指導や運動指導をするなど、実態に見合った医療をすれば役に立つんですけど、薬ばかり出すから。 柴田 例えばアメリカは老年医学という講座はなく、複数の科がプロジェクトを組んで診ています。イギリスは家庭医学の範疇です。 和田 日本はこれだけ認知症の人が多いのに、精神科の人も入ってこないし、高齢者の鬱病を診る人も少ない。 柴田 栄養学も統計学も無視。 和田 若いうちは1つの科だけの受診で済むから薬も2、3種類ですが、高齢になると複数の科にかかるから10種類の薬を飲んだりします。年を取るほど悪影響を受けるわけですよ。 柴田 老年医学でも地域医療でうまくやってる長野県みたいな例もあるんですけどね。 和田 うまく行ってる人から学ぼうっていう姿勢がないのが一番の問題だと思います。 ※第6回に続く 柴田博/Hiroshi Shibata 医学博士。1937年北海道生まれ。北海道大学医学部卒業。桜美林大学名誉教授。東京都健康長寿医療センター研究所名誉所員。老年学についての研究と教育を一貫して続けている。著書に『長寿の噓』『なにをどれだけ食べたらよいか。』など著書多数。 和田秀樹/Hideki Wada 精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て現職。30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。
TEXT=山城稔