《連載:茨城県内2024 10大ニュース》(9) 選定療養費
■救急車適正利用促す 「重篤な患者の搬送が遅れ、命を落とすことを絶対に防がなければ」。茨城県の大井川和彦知事は強調した。昨年1年間の同県内の救急搬送数は過去最多の約14万3000件で、その半数近くが「軽症等」という現実がある。救急医療の逼迫(ひっぱく)を回避するため、県主導で2日、緊急性のない救急搬送患者から「選定療養費」を徴収する制度が始まった。 三重県松阪市で先行して始まった取り組みで、都道府県単位では初めて。一般病床数が200以上の県内大病院のうち、約9割に当たる22病院が参加している。選定療養費は大病院を紹介状なしで受診した際にかかる追加料金。設定額は1100~1万3200円で、大半の18病院が7700円とする。 「要請をためらわないか」。新制度を巡り、一部の医師や子育て世代、高齢者などからは、救急車を利用すべき患者の要請控えを心配する声が出ている。一方で、不要不急の救急要請の実態、逼迫の現状を知る消防関係者や医師からは「救急車の適正利用促進に向けた代替案はない」など、やむにやまれぬ対策と捉える意見も上がる。 開始から8日までの1週間の実績を県は明らかにした。受け入れた救急搬送は計1527件で、徴収は5.8%の88件だった。事例は軽度の擦り傷や切り傷のみ、風邪の症状のみ、数日前からの腰痛などで、懸念されていた患者とのトラブルは確認されなかった。 さらに、県内全体の救急搬送件数は前年同期比で15.4%減少した。県担当者は現時点での分析は難しいとする一方、制度導入に当たり救急車の適正利用などを周知した結果、「不要不急の要請が控えられた可能性がある」とした。 6月から運用する松阪市は8月まで3カ月間の実績を公表。徴収率は7.4%で、救急搬送件数は前年同期比23.2%減としており、茨城県も開始1週間で同じような傾向が見られる。 「命に関わるような緊急時は迷わず救急車を」。搬送件数が減っても、利用すべき患者の要請控えが起きないようにしていくことは今後の大きな焦点。関係機関はポスターなどで訴え、救急電話相談「#7119(おとな)」「#8000(子ども)」の活用も促している。関係機関による月1回の検証では、要請控えで重症化したと考えられる事例や、症度別搬送件数で重症者の数に異常がないかなどもチェックする。 制度の趣旨や内容などの周知も課題となっている。制度導入の方針は7月下旬公表。10月下旬から広報紙やネット媒体などで情報提供した後、1カ月余りで制度を開始した。県民の理解が進んでこそ、要請控えを防ぎつつ緊急性のない搬送を減らすことができる。県担当者は「今後も周知を徹底していく」と強調した。
茨城新聞社