「孤高の天才」が味わっていた癖になる感覚とは?打撃職人の前田智徳さん プロ野球のレジェンド「名球会」連続インタビュー(24)
理想の打撃は(球種の)読みとか抜きで、来た球にしっかりと反応するというもの。基本はストレートにしっかり狙いを定め、カーブとか変化球に、特に落ちる球に対して意識をしなくても反応できる。そういう状態の精度がどんどん上がっていくということ。その中で甘い球はホームランにするというのが目指してたところだと思います。 大好きな川上哲治大先輩が言われた「球が止まって見えた」というほどではないですが、ボールがゆっくり見えているという状態。それが若い時にはありました。150キロであろうが160キロであろうが関係ありません。練習で打撃投手が投げる打ちやすい球と同じと感じていました。そういうことが自分の中にもあったというのを分かってもらいたいです。僕なんかより素晴らしい成績を残された方はたくさんいるので、説得力はないんですよ。ただ、その時の自分の感覚を言葉にしているだけなので。今回は、ちょっとだけ本音を言わせてもらいました。
スローモーションのような感覚で(球とバットが当たって飛ぶ過程が)進んでいく。あれがたまらなくて癖になるんですよ。物理的にはありえないんですけど、時間が長く感じられることが最高だったですね。ボールを4等分して、打者寄りの下側を狙います。どの球が来ても。そこを狙って打つとバットのしなりも一番得られるし、当たった時の吸い付いた感覚も長く得られます。しっかり捉えた時は思った以上にいい打球が飛び、距離も出ます。あんなに軽く振っているのに何で飛ぶし、打球が速いんだよというのが僕の一つの持ち味。バネであるとか、捉えるポイントであるとか、最高のものを全部引き出して打った打球が、そういうふうに見えるので、それが楽しみの一つでもありました。 試合の大勢がほとんど決まると、生きのいい若手とかが敗戦処理で出てきます。そういうピッチャーはがむしゃらに投げてきます。それをしゃかりきに打って凡打すると変な感触が残ります。次の日もゲームがあるので、いいイメージで入りたい。それであれば、見逃し三振。それはさりげなく、おお、いい球だったなとか、一応演技も必要なので。投手を見下すとか、ばかにするわけじゃないです。ファンの方には申し訳ないですが、これは今だから言えること。すみません。そういうところも駄目なんですよね。数字を求めていくのであれば、貪欲に打っていかないと、というところですね。内野安打やポテンヒットがあるかもしれない。でも、次の日もいい仕事がしたい、変な感触を残したくないというのがありました。