「孤高の天才」が味わっていた癖になる感覚とは?打撃職人の前田智徳さん プロ野球のレジェンド「名球会」連続インタビュー(24)
プロ野球のレジェンドに現役時代や、その後の活動を語ってもらう連続インタビュー「名球会よもやま話」。第24回は前田智徳さん。イチローさんや落合博満さんらが天才と評した打撃職人です。これぞプロという印象の一人ですが、お話をうかがっている時に謙遜ばかりされていたことを思い出します。(共同通信=中西利夫) ▽僕の中で天才は2人だけです 現役時代は振り返りたくありません。2千安打で名球会に入れさせてもらい、すごく名誉なことですけども、あんまり褒められたもんじゃなくて。アキレス腱を両方切ってからは非常に苦しく、夢を追う気持ちが途切れました。そこで終わるわけにもいかないので、期待に応えるために夢を諦めるというか目標設定を変えて、長くプレーできたというのはあります。僕の過去は全てかき消したいぐらいです。プロ野球は結果が全て。この世界は数字が上の人が偉いので、僕は語るに値しないです。 田舎から出てきて、いつ駄目になるかで勝負していました。そういった意味で視野が狭かったですし、周りがみんなライバル、敵という昔の教えでやっていたものですから。けがもあり、ますます心を閉ざしていきました。マスコミの人に接することを避けてきたのは、そこまでの余裕がなかったというか。プロとしては必要なことなんですが、もともと苦手でもあったんです。今は外から野球を勉強しながら、いろんな若い選手の話を聞いていくというのを、今までの罪滅ぼしと受け止めて頑張っています。だから(応対の変化に)びっくりされる方はいらっしゃると思います。
(天才打者と言われ)ただ恥ずかしいだけです。そういう方たちのリップサービスを、この世から消したいぐらいの、本当に恐縮な心境です。テニスであったり卓球であったり、水泳だっていますよね。いろんなスポーツで若くして出てくると、みんな天才っていうじゃないですか。野球界も高校を卒業して1年目でレギュラーとして活躍するのは天才に当てはまると思うんです。僕は2年目からなので、どちらかというとそっちの部類で天才と言われたのかなと思います。清原和博さん、立浪和義さんとかは天才だと思うんです。1年目から、あれだけのプレーをされたので。僕の中では2人しかいません。 ▽次の日の試合に向けて見逃し三振 究極の無心で球に体が反応してくれるという順調な時を過ごしていた時期はありました。そういった意味では才能があるんだなと思っていました。もしかすると、30歳までに理想の打撃が完成するんではないかという、ドキドキ感もありました。30歳を区切りとして、自分の打撃がどこまで出来上がるのか、もしくはぼろぼろに崩れるのか分かりませんが、30歳という目標は変わりませんでした。