試合は無観客、空襲警報で中断…ウクライナはなぜ戦時下でプロサッカーを続けるのか 伝説のストライカーを輩出した名門クラブからもOB6人が戦場へ
ロシアの侵攻が続くウクライナでプロサッカーリーグが試合を続けている。戦時下でもサッカーを続ける意味は何だろうか。伝説的ストライカーのシェフチェンコ氏らを輩出し、第2次大戦も乗り越えた名門クラブ、ディナモ・キーウ(キエフ)を訪ねると、チームのオーナーは「戦争のさなかでも、日常の営みをやめてはならない。ロシアに膝を屈しないと示す必要がある」と語った。(共同通信=角田隆一、写真は 【写真】戦争で手足を失ったウクライナ兵たちの新たな挑戦
マリーナ・リソフスカ撮影) ▽空襲警報で試合は中断 9月18日、静かな試合だった。首都キーウ中心部を流れる大河、ドニエプル川近くの本拠地でディナモの公式戦が開かれていた。観客席にファンの姿はない。ディナモと対戦相手の両チームの選手は、ウクライナ国旗をまとい入場。前線で戦う兵士らに感謝をささげるためだ。スタジアムにボールを蹴る音と選手の叫び声がこだまする。得点が入ると、スタジアムの裏山からのぞき見するファンから歓声が上がった。 昨年2月のロシアの侵攻後、ウクライナのサッカー1部リーグはシーズン途中で中止に追い込まれた。昨年8月に政府の許可を得て再開し、今年8月から戦時下の2シーズン目を迎えた。ただ無観客試合が義務付けられ、空襲警報があれば試合は中断される。 ▽飛行機を使わずに移動 ディナモの広報担当者シャクホフ氏(30)は戦争中も試合を継続する意義について「前線から兵士が応援ビデオを送ってくれる。つらいことが多いが、兵士やファンの気分転換になる」と話す。 チーム運営に戦時下ならではの苦労は多い。国内遠征では飛行機が使えず、広大な国土をバスや列車で長時間移動しなければならない。ロシアが占領した東部ドネツクが本拠地のディナモのライバル、強豪シャフタル・ドネツクは2014年以降、ホームに帰れず、西部リビウに拠点を移して活動を続ける。ディナモ広報のシャクホフ氏は「戦争でクラブを去った外国人選手も多い。ディナモの場合は幸いチケットの売上高は数%に過ぎないから財務的な影響は大きくない」と語る。