“五輪銀メダリストから教員”へ転身例も…門戸広げた「特別免許」思うように普及しない残念な理由とは
オリンピアンからの転身事例も
数としてはまだ少数派だが、特別免許制度を活用し、オリンピック人材が教職現場に転身した事例がある。京都市の中学校で教鞭(きょうべん)をとる田本博子氏だ。2000年のシドニー五輪ソフトボールの日本代表として銀メダルを獲得した同氏は、2011年に特別免許状を取得し、13年目を迎えた現在も保健体育の教員として教壇に立っている。 京都市では他にも教員免許を持たない人や取得見込みのない人にも門戸を開放し、特に医療的ケア(自立活動)の分野で、看護師免許や重症心身障害児の臨床経験3年以上の人を対象に、受験資格を与えている。 日本最大の教員数を誇る東京都教育委員会のこれまでの特別免許状の授与件数は、704件。「外国語指導助手(ALT)等、何らかの形で教科指導の補助を行っていた経歴の方が非常に多い状況です」と同委員会は明かし、偏りはあるものの専門人材を一定数確保できているという。 また、長野県は令和7年度の公立学校教員募集の受験資格として、博士号取得者が対象の選考においては、選考後に特別免許状を取得する必要があるとしながら、普通免許状の保有を条件としない柔軟な運用で、教員免許を持たない専門人材にも採用の敷居を下げている。
教員免許を巡る動きの裏になにがあるのか
教員免許を巡っては、「教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律」(令和4年法律第40号)が施行され、それまで10年ごとだった更新手続きが2022年7月1日から発展的に解消され、無期限となった。その理由のひとつには、更新講習の受講に伴う教員の負担軽減もあるとされる。 こうした動きや特別免許状の活用促進の動きを踏まえると、教育現場における人材不足が色濃い印象だ。文科省は、「多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成を図るうえで、特別免許状の授与総数が増加することは望ましいと考えるが、あくまでその目的を達成するための手段のひとつ」とし、特別免許の取得数に数値目標は掲げていないが、新しい風をもたらす人材からの多数の応募を渇望している。 学問やスポーツなどの専門分野で蓄積した知見や経験は、児童生徒にとって他に代えがたい生の教材だ。それを実際に体験した人の指導を受けられるとなれば、そのプラスの影響は計り知れない。 多様な分野から教員への道がひられれば、教職の魅力向上にもつながる。その門戸が大きく開かれたいま、閉塞(へいそく)する教育界に、新風を吹き込む異能がどれだけ流れ込んでいくのか注目される。
弁護士JP編集部