冷戦終結後のアジアと日本(8) 中国の権力構造と政治状況から日中関係を分析:国分良成・慶應義塾大名誉教授
中国との関係:日米の違い
小嶋 そのような中国と世界との関わりを先生はどう見ますか。また日本はどう向き合えばいいでしょうか。 国分 現在、中国は完全に世界から孤立しているのでしょうか。決してそうではありません。昨今「グローバルサウス」と言われる地域を中心に、中国の現実を受け入れざるを得ないという認識が広がっています。今のアジア、特にASEAN(東南アジア諸国連合)の国々は、日本への親しみはあるし、ODA(政府開発援助)などを通じた日本との関係も大切にしつつも、中国の存在は大きくやはり無視できない。中国経済が大きな問題を抱えてはいても、その影響力は着実に強まり、押しとどめることはできない。 小嶋 日本は、中国に対しても、他のアジア諸国や地域に対しても、現場の価値観や文脈を受け入れる姿勢を大事にしてきたからではないかと思います。 国分 例えば日本の対中政策は、アメリカの対中エンゲージメント(関与)政策とは少し異なるのです。アメリカは、イラクやアフガニスタン、中国に対しても、それをアメリカ的な社会にしたい、そうできるという思い込みが強いわけです。だから、結果的に思い通りにならないと裏切られたと強く感じるわけです。皆さん忘れていますが10年くらい前までアメリカはリムパック(環太平洋合同演習)に中国海軍を入れて、海賊対処行動などに関しても彼らを指導していたのです。対して日本の場合は、初めから中国を根本的に変えることなど無理だということを前提に、できるだけ国際レジームの中に中国を引き入れたいという一心だった。だからこそ日本の対応には常に一定の柔軟性があり、天安門事件の際に科した経済関係の制限をいち早く撤廃したり、WTO(世界貿易機関)加盟を積極的に推進したりしたのです。
地域研究は重要
小嶋 現在、これからのアジア研究、中国研究のあり方をどうお考えでしょうか。 国分 地域研究は重要です。特にアジア研究は、日本にとって決定的に重要な領域なので、研究の層を厚くするべきです。今後とも、地域や国によって違いはあっても、アジアは確実に豊かな社会へと歩んでいくでしょう。その際、各国や地域の多様性を踏まえて共同研究を進めていく場を作っていってほしい。この点、中国研究者は往々にして中国中心主義に陥りがちなので注意すべきです。また、国や地域を超えた比較研究や、さまざまな方法論を取り入れた学際的な比較分析なども大切です。中国の影響力がアジア地域に及ぶのですから、中国と他のアジア諸国との関係性などが、今後とも重要な研究テーマになると思います。米中関係など大国関係に目を奪われることなく、アジアという視点を忘れずに共同研究を進めてほしいと思います。 そして、世の中の目まぐるしい変化に惑わされることなく、自分自身の一貫した視点で突き進むことが大事だと考えます。私はよく言うのですが、皆が騒いでいるときに、物事の本質はもうそこにはないと思うのです。 インタビューは、2023年2月2日、nippon.comにおいて実施。原稿まとめを小嶋華津子・慶大教授と川島真・東大大学院教授が担当した。『アジア研究』(70巻2号、2024年4月)にインタビュー記録の全体が掲載されている。
【Profile】
国分 良成 慶應義塾大学名誉教授。専門は中国現代政治。1953年生まれ。同大学教授、法学部長、防衛大学校長を歴任した。2005-07年アジア政経学会理事長。