「救急車を呼んでこの園、大丈夫?って思われたら大変じゃない」苦しんでいる子どもがいるのに、外聞ばかり気にする園長 【書評】
本当なら、子どもたちだけに全身全霊で接していたい。それなのに、園内スタッフ(しかも上長)に気を遣い配慮して働くのは、まったくもって本意ではないはずだ。 園長との諍いの労力は、はっきり言えば無駄でしかない。それでも、大切な園児たちや保護者のために嫌味な園長と向き合う。そんな彼女たちに、同情と応援の念を抱きつつページをめくる読者も多いに違いない。
子どもたちに真摯に向き合う保育士の思いは、きちんと保護者にも伝わる。加えてそんな園長の振る舞いの違和感を、日々お迎えにくる保護者が見過ごすはずもない。 読者の立場でもはると同様、園長に対しさまざまなモヤモヤした感情を抱えてしまうが、ストーリーを追った結末に勧善懲悪で決着を迎える点は、本作における確かな救いだろう。 保育士という仕事において、我々には普段見えない角度での“大変さ”を描いた本作。実際にはこのようなことがないのが一番だが、時に現実にはフィクション以上の苦労が待ち受けることもある。 大変な仕事にも、やり甲斐と責任感を持って従事する。そんな保育士だけでなく他のさまざまな職業の人々にも「お疲れ様です」、そして「いつもありがとうございます」と、感謝と尊敬の念を抱く思いやりの大事さを教えてくれる、本書はそんな作品でもあるのかもしれない。 文=ネゴト/ 曽我美なつめ