母がマルチ商法で買ったサプリを姉がこっそり捨てたら引っぱたいた…「うちはおかしいのかも」マルチ2世の苦悩とは
生活に侵入してくるアップ会員
そもそも親子といえど、程度の差はあれ、真に理解しあえる関係は少ないだろう。しかしそれでもやはり、マルチ商法がからんだ家庭のあり方は、異質だと思う。 まずはわかりやすく、家族間で勧誘行為があることだ。 一般に保険をはじめとして、ノルマ達成のため家族や知人に契約してもらうのはよくあることだが、マルチ商法では家族の日常に、同社の会員が深く入り込んでくる気味悪さがある。 「アップ(販売組織の上層に位置する会員)」を心酔し、師と崇め、心を奪われる。個人の問題ではなく、そうさせる文化とマニュアルがマルチ商法にはあるからだ。 夢や目標を共有し、ファミリーのごとく親身に熱心に、居心地のよさを提供してくれる(一部の宗教でも似たような風景が展開されていそうだ)。ライオさんの実家の場合は、母がアップであるA夫婦に心酔していた。
都合のいい物語を信じる母
「あるころから、AさんがAさんが、と母が話すようになりました」 母は「あなたは小さいころからAさんにかわいがってもらってね」と語るが、ライオさんにAさんとかかわった記憶はまったくない。単にライオさんが覚えていないのではなく、母の中でそういう物語ができ上がっているようなのだ。 「Aさんって誰だろう?と違和感を覚えました。大学に入学したときは、Aさんから僕に大学の入学祝いなどが送られてきました。マルチ会社の、重量感ハンパないキッチンばさみです。Aさんへお礼の手紙を書きなさい、と母から言われましたが……書くのを悩みました」 入学祝いに、重量のあるキッチンばさみとはめずらしい。ひとり暮らしの実用品にと思ったのか、「未来を切り開いてほしい」と思ったか(最近はそういう解釈もあるらしい)。Aさんの意図は不明だが、個人的には母とマルチの縁を切る道具として活躍してほしい。 はさみはその後、別のタイミングで同じものが2回送られてきたという。ライオさん曰く、ここにもマルチ商法の特徴が表れているという。アップが作業的に自分のチームを“ケア”している感が、にじみ出ているのだ。 「当時、送ってきたことも覚えていないんだろうと感じましたね。活動の一環としての定番の贈り物であって、お祝いの気持ちは微塵(みじん)もないのだろうと」