尹氏の弾劾審理する判事任命でも政治的混迷 孤立深める大統領代行
【ソウル=桜井紀雄】「非常戒厳」を宣布した韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領について内乱容疑で捜査する当局が3日、尹氏の拘束令状執行に失敗したことで、捜査の行方が読みにくくなった。尹氏や首相の弾劾訴追で混乱が続く政権運営でも、弾劾審理を行う憲法裁判所の判事任命を巡り大統領代行を担う経済副首相の孤立が浮き彫りに。政治的な混迷状況が深まっている。 【写真】3日、ソウルの大統領公邸付近で、尹錫悦大統領の拘束令状執行に反発する支持者ら 昨年12月の国会で尹氏が弾劾訴追されたことを受け、尹氏の罷免の可否を審理する憲法裁の非正常な体制を是正する動きがあった。本来は判事9人体制で欠員中だった3人のうち2人に関し、大統領権限を代行する崔相穆(チェサンモク)経済副首相兼企画財政相が12月31日に任命を行ったのだ。 弾劾決定には6人以上の賛成が必要。欠員で6人体制のままでも審理はできるものの、決定を下すのは難しいとの見方があった。8人体制になることで、正常な審理が実現するとみられている。 憲法裁判事の人事を保留した韓悳洙(ハンドクス)首相は、最大野党の革新系「共に民主党」が弾劾訴追に追い込んだ。与野党が激しく対立する人事を断行した理由について、崔氏は「政治的な不確実性や社会対立を終わらせ、経済の危機を防ぐ」ためだと説明した。 大統領府側は強く反発、主要高官全員が一時辞意を表明した。保守系与党「国民の力」の猛反発に加え、残る判事1人の任命を保留したことで野党も崔氏を非難。他の閣僚まで崔氏の「独断」を批判し、崔氏は孤立無援状態に置かれた。 崔氏は韓氏の弾劾訴追を受けて大統領と首相の双方の権限を代行する。警察や消防を統括して大事故の対応に当たる担当閣僚も戒厳に絡み辞任していたため、昨年末に南西部の務安(ムアン)国際空港で179人が死亡した旅客機事故後には担当相も加えた「1人4役」で事態収拾に忙殺されている。 政情不安が経済に与える影響も指摘される中、崔氏は本来の担当である経済政策に集中できない状況も続く。韓国紙によると、憲法裁人事を巡って閣議で集中非難を浴びた崔氏は、目を潤ませてこう漏らしたという。「旅客機事故がなければ、とっくに辞任しようと思っていた」