「グラディエーター」から「悪魔祓い師」へ、名優ラッセル・クロウはどこへ行く?
日本でもCMが放送され始めたが、2000年に公開されて「アカデミー賞」「ゴールデングローブ賞」などを獲得した『グラディエーター』の続編、『グラディエーター2 英雄を呼ぶ声』が、ポール・メスカル主演で11月15日に公開される。 残念ながら、前作で主演を務めたラッセル・クロウの出番はない。『グラディエーター』で人生が変わったと語るクロウだが、彼が主演し、ジョシュア・ジョン・ミラー監督の映画『The Exorcism(ジ・エクソシズム)』(原題)が、低評価を叩き出しながら世界で順次公開中(日本未公開)だ。 そこで、名優ラッセル・クロウの現在地から今後を占ってみた。 ◇『グラディエーター』では映画史に名を残す雄姿 ラッセル・クロウと言えば、リドリー・スコット監督『グラディエーター』(2000)だ。 今年は24年ぶりにして、同監督による続編『グラディエーター2 英雄を呼ぶ声』が11月15日公開。主人公はマキシマス(クロウ)から、成長した息子であるルシアス(ポール・メスカル)に世代交代している。 もし期待外れだったら、新主人公メスカルが責められないか心配だ。メスカルへの文句は、『aftersun / アフターサン』(2022)か『異人たち』(2023)を見てから言ってほしい。 それほど『グラディエーター』が良く、クロウの雄姿は忘れ難いという話だ。 2公開に先駆け、『グラディエーター 4Kデジタルリマスター』も10月に限定劇場公開。良いのはクロウだけでなく、悪役を務めたホアキン・フェニックスには『ジョーカー』(2019)の萌芽が見えるし、個性派オリヴァー・リードの遺作でもある。 ところで、グラディエーター(古代ローマの剣闘士)の映画なら、すでに『スパルタカス』(1960)という名作がある。歴史ものにとどまらず、SFやホラーの名作まで続々生みだしたスタンリー・キューブリック監督の間口の広さを示す1本ではあるが、カーク・ダグラスと言えば『スパルタカス』でもない。 2020年に103歳で亡くなったダグラスには、長きに渡る俳優人生で、1つに絞れないほど良い作品がある。『OK牧場の決闘』(1957)あたりが有名だろうが、そこまで大作ではない『探偵物語』(1951)が好みだ。 加えて時代性もあろう。ヒーローも時代を映す。『スパルタカス』はマッチョ味が強い。たとえば名場面も、スパルタカスに付いていった仲間たちの心意気を感じさせる場面だ。対して『グラディエーター』では、最期まで家族の待つ家に帰ることを夢見ていたとわかる場面が泣かせる。柔らか味のあるマキシマスのほうが、現代の筆者には胸に迫る。 ◇演技力を印象づけた『ビューティフル・マインド』 前年、『インサイダー』でアカデミー主演男優賞ノミネートまでいったクロウは、『グラディエーター』で、ついに同賞を射止めた。さらに翌年の『ビューティフル・マインド』で再々度ノミネート、メンタルの病で妄想に囚われていった実在の数学者ジョン・ナッシュという、まるでタイプの違う役柄で演技力を印象づけた。 名優としての地歩を固める一方、暴力行為で有罪判決を受けたり、ラジオ・インタビュー中に怒って席を立ったり、キレっぷりも知られていく。 そして、『アオラレ』(2020)のキレ男役だ。 キレ男役が悪いわけではない。キレ男映画にも良作はある。たとえば『フォーリング・ダウン』(1993)は、交通渋滞が引き金となってキレるのは『アオラレ』と同じだが、ただキレるだけではなかった。失業した男が自分を保てなくなり、どんどん悪いほうに転がっていく悲劇でもあった。主演したマイケル・ダグラスもアカデミー賞俳優だが、その演技力に十分見合う映画だ。 一方『アオラレ』の主人公は、キレる背景が共感を呼ばず、理不尽が際立つ。名優クロウ、なぜにこの役を? そういえば、マイケルは上記『スパルタカス』カークの息子だ。クロウをダシに、回りくどくダグラス親子を推すものではないので悪しからず。