「女性はいまだにプリンセス願望を持っている」恋愛しない女性が大物脚本家の発言に「はて?」…ドラマ『若草物語』に受け継がれた『虎に翼』精神
結婚で家事労働がタダになる?『逃げ恥』
もちろん、昔からフェミニズムを感じるドラマはあったにせよ、その考え方を、直接セリフなどに落とし込んだのは、2016年の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)が早かったのではないかと考える。 海野つなみ原作、野木亜紀子脚本のこのドラマは、“ムズキュン”という言葉も生まれたくらいで、ラブ・コメディというイメージも強い。しかし、物語は主人公の森山みくり(新垣結衣)が、大学院を出ても正規の職に就職できず、派遣社員として働き仕事をそつなくこなすも、そうした態度を「小賢しい」と言われてしまったり、学歴や仕事っぷりから「ほかでもやっていけるだろう」とみなされ、あきらかに失敗の多い若い女性の派遣社員ではなく自分が派遣切りにあってしまうところからスタートする。つまりは、女性の労働問題が描かれているのだ。 その後は、父の知り合いという縁で紹介された津崎平匡(星野源)の家で家政婦として働き始める。みくりと平匡はお互いの利害が一致したために契約(当初は偽装である)結婚をして、その後、二人の間には恋愛感情が芽生える。しかし結婚がちらつくようになると、みくりにとってそれまでは賃労働であった家事が、奉仕に変わって当然となる。その矛盾をこのドラマは「好きの搾取」と表したのである。結婚を機に、ケアが無償で当然となる感覚への疑問をここまで見事に示したドラマを初めて見て衝撃を受けた。
まだまだあるフェミニズムドラマ
去年の末から今年の1月まで放送されていた『SHUT UP』(テレビ東京)というドラマは、インカレサークルを立ち上げた一流大学の男性と、学費をバイトで賄い、ギリギリの暮しをしている外部の女子大生が望まぬ妊娠をしたことから始まる。女性の貧困、格差社会、そして、現実にも古くは早稲田大学のスーパーフリー事件や、有名大学のサークルの組織的な性暴力事件などを思わせる世界を描き、その問題点にまっこうから挑んだドラマであった。 こうしたフェミニズムを描くドラマは、ここに挙げたものだけではない。『虎に翼』脚本家の吉田恵里香にしても、2020年には『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』の中では、男性と男性の恋愛において、性的な行為の前には、お互いの同意がいるのだということを描いていた。また同ドラマの中には、アロマンティック・アセクシャルのキャラクターが登場して、それが『恋せぬふたり』(NHK)や、そして『虎に翼』へとつながった。吉田もまた、フェミニズムドラマの系譜の中で、次々とドラマを生み出している作家なのである。 『若草物語』に限らず、これからもさまざまなドラマにフェミニズムは描かれるだろう。話題にならないとなかなか一般的なところまでは届かず、日本のドラマには、フェミニズムが描かれないと嘆かれることも多々あったが、『虎に翼』が注目され、今後もますますこうしたドラマが作られることで、フェミニズムに関心がなかった人にも届き、自分の苦しさを救うヒントがあるのだと知る機会になればと願う。
西森 路代