1年で辞めた相棒…監督夫人に「やっていられない」 選手の前で公開説教、自由なきID野球
効果的なデータ提示へ頭脳をフル回転…徹夜で資料作りに没頭
「だから、そういうことを言われないようなミーティングをしようってなるじゃないですか。そこからまた勉強しなきゃいけないってなったんですよ」。伊勢氏は持ち前の負けん気プラス責任感によって、より真剣に、より必死にID野球に取り組むことになった。それこそ気が抜けない日々だった。ある年は、オールスター休み期間中にも頭脳をフル回転させたことがあったという。「いつだったか、ホテルに泊って3日間、キャンプをするっていうんでね」 その年は前半戦終了から後半戦開始前までのオールスター休みが5日間あったそうで、後ろの3日間がミニキャンプ期間となった。その実施前に伊勢氏は野村監督に呼ばれた。「『お前に2時間やる。前半戦にやられたピッチャーが6人くらいいるやろ』って言われました。それでもう1回、前半戦のチャートとか資料を家に持ち帰ってやり直しました」。球宴出場組以外は最初の2日間が練習休みだったが、伊勢氏には休んでいる暇もなかった。 「他の連中がゴルフとか行って遊んでいるのに、私は資料とにらめっこして、徹夜でしたね」。配球パターンも含め、苦手投手との対戦傾向を調べ尽くし、後半戦に向けての対応策を綿密かつ、わかりやすく選手に説明しなければならないのだから、ちょっとした時間でできるようなものではなかった。まさに全精力を注いで、ホテルでのミーティングに臨んだのだった。伊勢氏は表情を崩しながら、こう明かした。 「(ホテルでの)3日目が終わって神宮(球場)に行って、練習開始前にノムさんが『伊勢よ、ご苦労さんやったな。お前、オールスター休みなかったな』って言ってくれたんですよ」。伊勢氏のミーティングを、野村監督が評価したからこその労いの言葉だろう。“野村ID野球”の伝承者として、現在も野球と関わり続ける伊勢氏にとって、これも忘れられない出来事だ。
山口真司 / Shinji Yamaguchi