1年で辞めた相棒…監督夫人に「やっていられない」 選手の前で公開説教、自由なきID野球
目を閉じていた野村監督が突如「ちょっと待てぃ!」
それはキャンプ期間だけでは終わらなかった。「キャンプのミーティングは毎日1時間くらい。それだけでは足りなくてオープン戦とかでもやったんですよ。それも博多とかでね。みんな久しぶりの博多だから、空港からホテルに行くバスの中で“あそこ行って飯食って、飲みに行って”とか相談していたら、ホテルに着く10分前くらいにノムさんがガイドに言ってマイクをもらって『今日は晩飯終わったら俺に1時間半くらいくれ、ミーティングやるから』って」。 その瞬間、バスの中のムードが一変したのは言うまでもない。「みんな(の博多でのプランが)パーですよ。ノムさんは遊ばせよらんのですよ。でも、それくらいやりましたよね。ヤクルトというのはノムさんが来たから勝てるとか、そうじゃなくて、野球というのは奥が深くて、そこまで頭を使ってやらなければいけないというのを、とことん植え付けられたんですよ」。それがヤクルトを変えた。伊勢氏もナインとともに学んだわけだ。 加えて、伊勢氏には、シーズン中の野手ミーティングで選手たちに的確な指示を出す役目がある。そこでは野村監督も納得させなければならない。これが大変だった。「私のミーティングをノムさんは聞いていましたよ。目をつぶってね。あるとき、もう今日はこの辺でええやろ、(監督は)寝とるやないかと思って『ミーティングはこれで終わります』と言ったら、ノムさんが『ちょっと待てぃ!』って……」。 そこから野村監督の伊勢氏への説教が、野手の前で始まったという。「『お前なぁ、どの球を狙わすというのは根拠的なものをちゃんと言うてやらな、選手は思いきってでけへんやろ。お前、人ごとやと思って、いいかげんなミーティングをするなよ!』ってね。そういうふうに言われたことが何回かありました。むかつきましたけどね」と伊勢氏は苦笑しながら振り返った。選手を指導する打撃コーチの立場としては何ともつらい状況だっただろう。