反乱から1年 いまだに神格化されるプリゴジン氏―ロシアの極右勢力の不満
なぜプリゴジン氏は「神格化」されるのか?
プリゴジン氏がウクライナへの侵攻を巡る実態を暴露し、痛烈に国防省を批判する動画はインターネット上に今も溢れている。 ワグネルに関連するサイトはもちろんのこと、リベラルな独立系メディア「メドゥーザ」のYouTubeチャンネルでさえも、再生回数の上位4つはいまだに1年前のプリゴジン氏の動画だ。 戦死者の遺体の前に仁王立ちし「ショイグ、ゲラシモフ!弾薬はどこだ!」と、国防省が弾薬を意図的に前線に届けていないと怒りをぶつける動画の再生数は1316万回に上る。 プーチン政権の国防費を巡る汚職や戦略に公然と不満をぶつけ「あいつらは兵士を無駄死にさせている。“爺さん”は完全にアホだってことだ」と国防省を批判する動画は1113万回の再生を記録している。 断っておけば、メドゥーザはプーチン政権から敵視され、「好ましくない組織」に指定されている。読者層はリベラルな反戦派だ。 プリゴジン氏は残忍な言動で知られ、元囚人も多いワグネルの帰還兵による残忍な事件は今もロシア社会を脅かし続け、メドゥーザを始めとする独立系メディアもその問題を指摘している。 にもかかわらず、幅広い層のロシア人がプリゴジン氏の言動にシンパシーを感じている。
プーチン大統領の懐柔策と充満する不満
プーチン大統領はナワリヌイ氏らリベラル層を徹底的に弾圧し黙らせる一方、戦場に赴く兵士たちを「新しいエリート」と呼び、今後のロシア社会の中心を担っていくものたちだと持ち上げる。 ワグネルはまさに前線の最も危険な地域に繰り出し、ウクライナ侵攻を支えてきた集団だ。 プーチン氏は、5月の新政権発足以降、国防省の幹部らを更迭し、軍の改革姿勢を示そうとしている。 しかし、ワグネルの兵士やその支援者たちにはプーチン大統領の「懐柔策」は響いておらず、今も不満を抱き続けていることを、プリゴジン氏の神格化は物語っている。
プガチョフの乱
ロシアでは、死んだはずの人物が歴史を揺るがすことがある。 エカテリーナ二世の統治下のロシアでは1773年、コサック出身のプガチョフという男が、死んだはずの「ピョートル三世」を名乗り、史上最大の農民反乱をひきおこした。 最終的に反乱は失敗し、プガチョフはモスクワで処刑されるが、バシキル人やタタール人など様々な民族も賛同し、各地の要塞を陥落させていった事実はエカテリーナ二世を恐怖に追い込んだ。 農奴制や重税に苦しんでした民衆は、自分たちを救ってくれようとする彼こそ「真の皇帝」に違いないと信じたのだ。 今のロシアも同じ状況かもしれない。 人びとの充満する不満にプーチン大統領が対処できない限り、今後、プリゴジン氏を騙る人物が現れないとは限らない。
テレビ朝日