反乱から1年 いまだに神格化されるプリゴジン氏―ロシアの極右勢力の不満
“彼ら”はプリゴジン氏が死んでも恐れている
サングラスの女性は指示を出している様子からワグネルの幹部のようだ。なにか知っているかもしれない。 ―墓石に変えるのは埋葬から1年後ではないのですか?なぜ急ぐのですか? 「かならず1年でなければならないという決まりはありません。ここはもう古い墓地ですから問題はありません。6月1日は彼の誕生日ですし」 ―では、明日はセレモニーが行われるのですか?何時からですか?家族は来ますか? 女性は溶接作業を見つめたままこう言った。 「セレモニーは企画しました。でも、親族が嫌がったので行わないことにしました」 ―なぜ親族は嫌がったのですか? 「彼らから相当な嫌がらせを受けたからです」 彼女ははっきりといわなかったが、「彼ら」というのが「当局」を指すということは容易に想像がつく。 ―嫌がらせですか?どんな? 「彼らは何かをされることを恐れているんです。 プリゴジンが死んでも、その魂を恐れています。 この銅像を建てるのだって、さまざまな妨害がありましたし、家族に対してもです。 いずれにしても明日は何も行われません。 もうこれ以上、私はなにも話しません」 彼女は、具体的にどのような嫌がらせを受けたのか答えなかった。しかし、その話しぶりはプーチン政権がプリゴジン氏の再評価を恐れていることを物語っていた。
監視される墓地
プリゴジン氏の誕生日にあたる翌朝の6月1日。 早朝から墓地に足を運ぶとプリゴジン氏の銅像の前に女性警察官が1人で立っている。 近づくと、女性警察官は銅像の手前までいけるように道を開けてくれた。 ―一晩中見張っているのですか? 「ええ」 ―墓地にたった一人でいるのは怖くないですか? 「もうすぐ交代ですから」 そう言ってくすっと笑うそぶりを見せつつ、警察官は遠くに視線を送った。 振り向くと男性が2人、私のことをスマートフォンで撮影している。 気が付くと周囲には、不自然な2人組の男性が何組も墓地の中を歩いている。 早朝に複数の男性2人組が散歩で墓地を訪れるというのは不自然だ。 そして、全員がショルダーバックをかけている。 「両手を自由にしているのは治安部隊だから気を付けるように」と、以前あるジャーナリストに耳打ちされたことを思い出した。 みな治安当局の関係者で事態の急変を恐れ、ひっそりと監視を続けているのだろう。