タイ代表・石井正忠監督の初陣で“混合サポーター”が作り出した熱狂。伝説となった「神対応」と二つの幸せな関係
伝説となっている石井正忠の「神対応」
しかし石井氏がレジェンド・オブ・レジェンドとして語られているのは、鹿島にもたらしたタイトルの数の多さだけが理由ではない。 伝説となっているのが石井氏の「神対応」と呼ばれるファンサービスだ。 選手時代だけでなく引退後のユースコーチ時代、フィジカルコーチ時代、そして監督になってからも、どの時代であっても石井氏はずっと鹿島のサポーターを愛し、大切にし、そして鹿島のサポーターからも愛されるそんな関係を築いていた。 石井氏の魅力はクラブハウスでの丁寧なファンサービスだけでなく、街中でサポーターに声をかけられても気さくに対応したり、サッカー人の前に一人の人間として、どんな人ともフラットに接するところにある。 鹿島の監督時代にこんなエピソードがある。石井氏はサッカー新聞エル・ゴラッソが編集している『親子で学ぶ サッカー世界図鑑』に感銘を受けて、自腹でその本を大量に購入し、鹿行地区(鹿島アントラーズのホームタウンである鹿嶋市、潮来市、神栖市、行方市、鉾田市の5つの市)の全小学校に寄贈した。しかも監督という多忙な仕事に従事している中、プライベートの時間を割いて全小学校に自分で車を運転して寄贈しに回ったという。石井氏にはホームタウンの子どもたちにサッカーを好きになってほしいという気持ちと、サッカーを通して世界の文化を学び世界とのつながりを感じてほしいという気持ちがあった。 サッカー図鑑の寄贈はクラブを通した活動ではなく、あくまで石井氏個人としてプライベートで行った活動だったため、小学校によっては石井氏を鹿島アントラーズの監督だと知らずにただ本を受け取ったという小学校もあったようだ。 この石井氏の活動は徐々に認知されていき「うちの小学校にも石井監督が来るかもしれない!」と心待ちにする小学校が出てきた。その中で「ぜひ小学6年生の教室に顔を出してください!」「給食を一緒に食べていってください」など交流の機会も増えていった。地域の小学校の校長先生が集まる校長会では「石井さんがここまで小学生にしてくださるなら、われわれももっとできることがあるのではないか」ということで、鹿島の試合日から運動会の日程をずらす学校も出てきたほどだった。