【#佐藤優のシン世界地図探索77】モスクワで生まれた「進化した資本主義」とは?
佐藤 それから、高等教育を受けても極端な賃金差が出ない方向を目指しています。現状では高等教育を受けた場合、一般労働者の20~30倍の賃金をもらえます。しかし、その賃金差では社会として厳しい。なので、差を3~5倍ぐらいに抑えようとしています。 さらに、ソ連時代の五ヵ年計画ではありませんが、ひとつの分野で必要な人材の人数を把握していきます。例えば、大学で日本語を専攻したにも関わらず、日本語を一生使わない営業職に就くのは本人にとっても不幸ですし、国家が投資するには無駄です。なので、文系理系を含めておよその定員数も、社会構造のニーズとこれからの方向性を合せて調整しています。 それから、高校までの文系理系と数学のレベル全体を上げるつもりです。プログラミングと歴史も必修や重点科目にして、スタンダードを一緒にするといったことも考えています。 ――教育では五ヵ年計画復活。ロシアは動き始めているのですね。 佐藤 もう改革は始まっています。西側の教育システムは、成績重視です。しかし、結局それは資産のある家の子供が、良い教育を幼少期から受けられるから成績が良くなるということです。つまり、親の経済状況による階級格差が出てきてしまいます。 すると、社会がやる気が無くなるから、それを防ぐために潜在力を上げようということです。ただし、その際に金持ちの子供をいじめる必要はありません。あくまで金持ちの子供しか可能性が無いという体制にならないように、軌道修正するのが目標です。 そのうちのひとつが、外国の大学に留学した際の学位は、基本、互換できなくすることです。要するに、ハーバード大学やケンブリッジ大学に行こうが、そこで取ってきた学位は、ロシアでは評価の対象になりません。あくまでロシアの教育システムの中での学位が評価されます。 "混乱の1990年代"には「個人でお金を貯めることが素晴らしい」という教育が行なわれました。しかし、これが最大の問題でした。そういった高等教育を受けた連中は、今回の特別軍事作戦で皆、逃げました。 ――いなくなったのですか? 佐藤 そうです。そんな高等教育を受けて、いざ国家の危機となったら逃げ出すような人たちはいらない、ということです。 ――なるほど。我々が日本で見聞きしている西側からの報道だと、「ロシアは大変な事になっている」と。しかし、実際は西側の世界から孤立したお陰で、ロシアはあらゆる問題が解決するべく良い方向に動いている。