「解雇を受け入れたら、お金がもらえる」 解雇規制の緩和、日本で実現するか?
わが国の「解雇」対応は、時代に合っているのか?
現在の解雇の在り方は、深刻な人手不足に陥っている日本が目指すべき方向にブレーキをかけてしまっていると筆者は考えている。優秀人材は待っているだけでは到底採用できないため、グローバル市場から積極的に誘引することが求められる時代だが、現在の解雇の在り方は人材流動性を低下させてしまう可能性がある。採用後のミスマッチ発覚や、急激な市況・業績変化に対応できないからだ。 「解雇したら訴えられ、解決金支払いやレピュテーション低下などのトラブルになる」ことがほぼ確定している場合、雇用側にとって採用はリスク要因となり、高い報酬を設定すること自体を躊躇(ちゅうちょ)してしまうことにもなりかねない。 そうなると、必然的に「絶対に間違いない人しか採用しない」こととなり、人手不足にもかかわらず採用ハードルは上げざるを得なくなる。具体的には、精緻な書類(履歴書、職務経歴書、エントリーシートなど)を書かせ、適性試験を受けさせ、何度も面接を経る過程の中で「当社のメンバーとして迎え入れるに相応しい人物か」を精査するわけだが、明らかに応募者にとっても選考側にとっても負担である。もちろん、人材流動性は低くなる一方だ。 一方で解雇となっても法廷闘争まで至ることなく、「お互い相性が良くなかったね」程度でお別れできれば、必然的に入社時の選考ハードルは下がり、人材流動性は高まることだろう。そうなれば、一時的かもしれないが成長産業に優秀人材が集まりやすくなり、経済成長も期待できる。 また、日本企業で給料が上がりにくい一因は「人員ニーズがなくなってもクビにできず、社内で雇い続けないといけない」ところにある。逆に考えれば「ニーズがなくなったらクビにできるので、ニーズが大きいうちは給料を上げられる」、すなわち従業員の給料アップにつながるのだ。 こんな主張をすると、「社員をクビにするような悪徳経営者が、給料を上げようなんて考えるわけがないだろ!」と反論する方が出てくるが、それはあまりに経営者を敵視しすぎ、経営を単純に考えすぎだろう。 今やどの業界も人手不足であり、事業に貢献できる人材は世界規模で獲得競争の渦中にある。競合他社より給料を上げるだけで優秀人材が来てくれるなら、喜んで給料を弾むと考える経営者は少なくない。 ただ先述のとおり、現行ではいったんメンバーとして迎え入れた以上、その後「長期的に雇い続けないといけない」プレッシャーがあるため、給料を上げる制約条件になっているだけなのだ。 そして正規雇用と非正規雇用における待遇格差問題も、突き詰めれば「クビにしやすいか否か」に帰結する。クビにしやすくなれば、もはや待遇差どころか「身分格差」となっている非正規雇用問題も解消するだろう。 さらには、クビにできやすくなれば不幸な「就職氷河期」もなくなるはずだ。過去記事でも言及したとおり、就職氷河期が生まれた原因は、景気後退期でも既存社員を簡単にクビにできなかったため、雇用調整手段として「新卒採用を極端に絞り込む」という手段を採ってしまったからだ(過去記事:「どうすれば就職氷河期を回避できた? 今も残る『元凶』」、「結局、就職氷河期とは何だったのか? その背景と今に続く深い傷跡」)。 大企業の決算が発表されるたびに「内部留保が多すぎる! 給料アップに回せ!」と批判する人が現れる。内部留保(利益剰余金)は過去に稼いだ利益の蓄積であり、人件費や税金などを支払った後に残ったものであるから、そこからさらに給料に回すことはできない。そもそもなぜ企業が内部留保を厚くしたがるかといえば、急な景気後退や天災など、不測の事態が発生しても、雇用を守り抜くためのリスクヘッジとして必要だからだ。 すなわち、クビにしやすくなれば必要以上の内部留保は不要となり、事業投資など成長に資する方面に資金を活用できる。 労使双方にここまでのメリットがある解雇規制緩和だが、その一方で「雇用の流動性を高めるためにも解雇をしやすくしよう!」などと提言すれば大きな反発を受けてしまうのは確実。そこで現実的な解決策として最適なのが、まさに今般議論となっている「解雇の金銭解決」制度の導入なのである。