岡田将生・羽村仁成主演「ゴールド・ボーイ」中国から沖縄に舞台を変えた映画版 衝撃のサプライズをぜひ原作で!
■読者を考えさせる原作、観客に答えを示した映画
この原作にはない結末を用意したことで何が変わったか。物語の社会派な面が一気に強調されたのだ。情状酌量の余地のない、まったくの身勝手な自分本位の殺人が何を引き起こすか、それをどう見るか、どう考えるか。映画は落ち着くところに落ち着いたと言えるが、原作ではそれが読者に委ねられる分、いつまでも尾を引く。誰かと語り合いたくなる。どちらがいいかはお好み次第だ。 原作にもそういう社会派な面ももちろんあるが、何よりめちゃくちゃエキサイティングなエンタメであることが第一だ。「嘘でしょ、どうなるのどうするの」「ええっ、そういうことだったの!?」と驚くような展開が畳み書けるように用意されているし、子どもvs大人の腹の探り合いと、子どもとは思えない朱朝陽の深謀遠慮にワクワクする。殺人犯と子どもたちとの会話はかなりカットされていたが、原作ではその駆け引きの様子が丁々発止の会話劇で何度も登場し、そのたびに彼の頭脳に舌を巻くことになる。本書は中国ノワールにカテゴライズされているが、少年たちのくだりはむしろピカレスク(悪漢小説)と言った方がいいかも。 何より、原作最大の衝撃は下巻の終盤、21章だ。この章を読んだ時、この物語の企みが明らかになって「はあああっ!?」と声が出た。すべてがひっくり返るこのサプライズは、ノワールというよりミステリの手法だ。もともと著者は「中国の東野圭吾」と呼ばれているくらいトリッキーな作風の作家なのである。このサプライズが映画では(映像的に難しいので仕方ないとはいえ)かなり薄められてたんだよなー。ここはぜひ原作で、その衝撃を味わってほしい。もうね、序盤からいかに緻密に伏線が張られていたかわかってびっくりするよ。 原作の張東昇に相当するのが岡田将生さん演じる東昇。朱朝陽少年が安室朝陽と名を変え、羽村仁成さんが演じた。このふたりがどっちもイメージぴったり! 岡田さんの美しい顔に狂気がよぎる芝居なんてタマランぞ。そして羽村くん! 「リボルバー・リリー」にも出演していたが、まだあれからちょっとしか経ってないのに大きくなっててびっくり。そして「うわっ、この子賢そう!」というオーラが全身から漂っている。朝陽だ……これは間違いなく朝陽だわ。 このふたりによる子どもvs大人の戦いが映画の大きな見どころではあるんだけど、原作ではその場面はもっと多いしもっと長いしもっと多岐にわたっているので、ぜひこのふたりで脳内再生しながら原作をお読みいただきたい。なお、江口洋介さん演じた刑事の東厳は原作では厳良という名前で元警察官の数学教授という設定。本書を含む「推理之王」3部作で探偵役を務めている。本書が3部作の第2作、今年1月に出た『検察官の遺言』(ハヤカワ・ミステリ文庫)が最終作なので、ぜひ手にとってみていただきたい。ていうか第1作も早く邦訳して! 大矢博子 書評家。著書に『クリスティを読む! ミステリの女王の名作入門講座』(東京創元社)、『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』(文春文庫)、『読み出したらとまらない! 女子ミステリーマストリード100』(日経文芸文庫)など。名古屋を拠点にラジオでのブックナビゲーターや読書会主催などの活動もしている。 Book Bang編集部 新潮社
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