ブラジルW杯 注目のファンタジスタ
■ポール・ポグバ[フランス代表/ユベントス/186cm、80kg] 現代サッカーにおける中盤の選手には自陣と敵陣のペナルティーエリア、いわゆる「ボックス・トゥ・ボックス」と呼ばれる広範なエリアで、攻守両面における運動量とスピードを高いレベルで求められる。そして、恵まれたサイズに突出した運動量とスピードを搭載した規格外のミッドフィールダーが、各チームの攻撃を差配する傾向がここ数年で顕著になってきた。ザックジャパンが初戦で対戦するコートジボワールの司令塔、ヤヤ・トゥーレ(マンチェスター・シティー)のサイズは188cm、90kg。組織力を無力化させる「絶対的な個」を象徴する選手の一人だが、水沼氏はブラジル大会で大ブレークを果たす候補としてフランス代表の新星、21歳のポグバを挙げる。 「サッカーの進化とともに、中盤の選手に求められるサイズもどんどん変わってきている。これだけのサイズがあって、技術が高く、スピードも驚異的で、決定力もあって、プレーそのものも柔らかい。ユベントスではピルロの前でプレーしているけど、一瞬見ただけでケタが違うと思ってしまう選手。ポグバが活躍すれば、前回の南アフリカ大会、2年前のユーロと不振が続いていたフランスが復活を果たす可能性もある。ユベントスも十分にビッグクラブだけど、さらに大きなクラブへ移籍するかもしれない」 ワールドカップ後の新シーズンへ向けて、すでにレアル・マドリードやバルセロナが触手を伸ばしているという情報も駆け巡っている。21歳にして絶対的な地位を築き上げたユベントスでつけられた愛称「オクトパス」は、ボール奪取時に最大の武器となり、走る際に大きなストライドをもたらすタコのような長いリーチに由来している。 ■マリオ・ゲッツェ[ドイツ代表/バイエルン・ミュンヘン/176cm、64kg] 南米大陸で開催されるワールドカップでヨーロッパ勢として初めて優勝する、との呼び声が高いドイツ代表は、23人のメンバーでFW登録が一人だけという異例の布陣でブラジル大会に臨む。元ブラジル代表のロナウドが持つ歴代最多得点記録の「15」まで1ゴールと迫っているFWミロスラフ・クローゼはメンバー入りしたが、大会直前に36歳になり、故障上がりという点でも不安は尽きない。 チームを率いて8年目となるヨアヒム・レーヴ監督は、本大会へ向けておそらく「ゼロトップ」プランを温めている。そして、秘策の担い手となるのが、所属するバイエルンでも「ゼロトップ」を経験している期待の22歳、ゲッツェとなる。ボルシア・ドルトムント時代に日本代表FW香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)とともにブレークを果たしたことで、日本でも名前が知れ渡ったゲッツェを水沼氏はこう評価する。 「得点感覚という面で、他の選手とは違うものを持っている。ここで打つのか、というタイミングでシュートを狙ってくる。FWがクローゼしかいないことを考えれば、ゲッツェは非常に面白い存在となる。ひと言で表現すれば、センスの塊となる。バイエルンで出場時間が減っている点が気がかりだけど、ドイツの攻撃陣の中では密集で一番仕事ができる選手と言っていい」 アルゼンチン代表のリオネル・メッシを生かすためにバルセロナでも採用されたことのある「ゼロトップ」のメリットは、本来ならばFWがいるべきエリアを空白にして、さらに2列目以降から中盤の選手が次々とFWと化してゴール前へ飛び込むことで、相手の守備陣を大混乱に陥れる点にある。 ドイツ・サッカー連盟のスポーツ・ディレクターを務める元ドイツ代表のスーパースター、マティアス・ザマーも「これまで見た選手の中で最高の逸材」と賞賛するゲッツェは、味方を巧みに操るという定義に照らし合わせれば、「ファンタジスタ」のくくりからは外れるかもしれない。しかし、けがの功名とばかりに「ゼロトップ」の申し子としてゲッツェがワールドカップの歴史にその名前を刻めば、サイズと身体能力で相手守備組織を蹴散らすポグバとともに、ミッドフィールダーの新たな系譜がブラジルの地で生まれることになる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)