映画「新聞記者」や「余命10年」を撮った新世代の監督・藤井道人の原点とは
映画監督、藤井道人。5月3日に公開される映画「青春18×2 君へと続く道」は、日本と台湾で撮影。藤井道人にとって初の国際プロジェクトとなった。「新聞記者」や「余命10年」とヒット作を撮るだけでない。俳優からも「一緒に作品を作りたい」と切望される。仲間と自主映画を作るのが楽しかった。その延長線に今もある。映画を作るのはかっこいいと、その姿勢と作品とで伝える。 【写真】グァンハンとダブル主演の清原果耶とのスリーショットはこちら * * * 「はい、よーい、スタート!」 3月終わりの東北地方。薄闇に包まれつつある寒空に、藤井道人(ふじいみちひと・37)の声が響く。この日クランクインしたNetflixシリーズ「イクサガミ」の撮影現場。黒いキャップに黒いコート姿の藤井はすらりとした長身を猫背気味に丸めながら、モニターを食い入るように見つめている。視線の先には300人のキャストとエキストラ、スタッフも100人以上はいるだろう。「いつもとはだいぶ違います」と苦笑いしつつ、軽いフットワークで俳優たちのそばに行き、スタッフに指示を出す。緊張感はあるけれど、威圧感はない。藤井を中心に現場がひとつになっている。撮ることが楽しくて、楽しくてしょうがない。そう言いたげな背中が、かがり火に照らされて輝いていた。 藤井はいまもっとも「求められる」監督だ。2019年の「新聞記者」で一躍世に知られ、現代を生きるヤクザを新たな視点で描いた「ヤクザと家族 The Family」(21年)、閉ざされた村を舞台にした「ヴィレッジ」(23年)など、硬派&社会派のイメージを持つ人も多い。が、「余命10年」(22年)では実話をもとに限られた命を生ききった少女の恋を切なく編んで興行収入30億円の大ヒットを記録した。今年2月にはNetflix映画「パレード」が配信公開、5月には新作「青春18×2 君へと続く道」が公開される。
まごうことなき売れっ子ぶり。さまざまなジャンルに果敢に挑戦し、しかしそのすべてに「藤井印」を刻んでいる。大学在学中からコマーシャルなど映像作りに携わり、卒業後、大学の仲間たちとクリエーター集団「BABEL LABEL」を立ち上げて活動。まさに「新世代の監督」の風情だ。大学時代から藤井を知る映画プロデューサーの伊藤主税(ちから・45)も言う。 「第一印象はすらっとして、オシャレな大学生という感じでした。でも中身はストイックで純粋。映画に対する執念はあのころから尋常じゃなかった」 ■年に350日は剣道の稽古 映画は高2で出合う 脚本を書いては「読んでください」と伊藤に持ち込み、自主制作映画でも予算をつけて、一般に公開することにこだわってきたという。 「スマートに見えるけど、その裏では本当に血みどろになりながら作品を作ってきた。そのときの時間とDNAがいまでも生きていると思う」 相対すると柔和な雰囲気と気さくな語り口が相手の心をなごませる。映画「新聞記者」の監督オファーが来た当時を振り返り「タイトルが『新聞記者』? ダサッ! ないわ!と思った」、続く「ヴィレッジ」のオファー時にも「オレ、ニューヨーク生まれ東京育ちのシティーボーイですよ? 村は無理!って言いました」などなど、ユーモアたっぷりに語る様子に爆笑させられる。 藤井は1986年、正確には東京に生まれ、すぐにニューヨークに移った。銀行員の父と旅行代理店で働く母、3歳上の姉と4歳までマンハッタンのど真ん中で暮らしていた。祖父は医師で、台湾に生まれ日本に渡った華僑だ。その血を引く藤井の父は絵や骨董(こっとう)のコレクターで、藤井は幼いころから家族でギャラリーをめぐっていた。いま母はキルト作家、姉は絵本作家として活躍している。