そのひきこもり、病的? 九大の研究班が支援の必要見極める診断基準を開発
新型コロナウイルス感染流行を経て、在宅ワークやオンライン授業が普及する中、病的ではない「ひきこもり」が増えてきた。国内の大学病院で初めてひきこもりの専門外来を開設した九州大の研究班は「病的なひきこもり」と「非病的(健康的)なひきこもり」を区別する診断基準を国際共同研究で開発。この基準を簡単にしたアンケートを活用して、病的なひきこもりを早期に発見して支援し、うつ病やゲーム障害などの精神疾患の予防につなげたいとしている。 九州大の研究班が開発したひきこもり診断基準のポイント 内閣府の2022年調査によると、仕事などの社会参加をせず、外出をほとんどしない状態が6カ月以上続く、いわゆる「ひきこもり」の人は推計146万人。15~64歳の年齢層の約2%に当たる。コロナ流行前の18年調査では推計115万人で、約30万人増えた。 研究班の加藤隆弘・九大大学院准教授(精神病態医学)は「健康的なひきこもりであればよいが、一部に病的な人もいる。両者を見分けて、病的なひきこもりの人に必要な支援を届ける必要がある」と強調する。 診断基準には12問の質問項目がある。仕事や学校、買い物などを含め計1時間以上の外出が週3日以下であれば「物理的ひきこもり」の状態にあり、そのうち外出が週2、3日だと「軽度」、週0、1日は「中等度以上」とした。それが6カ月以上続く従来の「ひきこもり」に加え、3カ月以上6カ月未満を「プレひきこもり」と定義した。 その上で、直近1カ月の外出状況について「つらく感じているか」「家族や周囲が心配している様子か」「仕事や学業に支障が出ているか」など7項目の質問に一つでも当てはまれば、「病的なひきこもり」の可能性があるとする。 厳密な評価には専門家による面接が必要だが、診断基準で病的ひきこもりに該当すれば、医療機関や地域の相談支援センターなどへの来訪が勧められる。 加藤氏ら研究班は、この診断基準を基に20~59歳で働いていない500人を対象にした全国オンライン調査を実施。病的ひきこもりと判断された人は、病的でないひきこもりの人に比べて抑うつ傾向が強いことが分かった。 さらに、病的ひきこもりの期間が3カ月未満の人は、ゲーム障害の傾向が最も高いことが判明。特にロールプレーイングゲームを利用する人が多いといい、加藤氏は「外出しないことで社会的な役割を失い、その喪失を補うためにゲームの世界で自分の役割を得ようとゲームに依存するのかもしれない」と分析する。 また、コロナ前はひきこもりでなかった社会人561人を対象にした調査では、コロナ禍で3割以上の人が一度は「物理的ひきこもり」の状態となり、そのうち3割が「病的」だった。社交的で社会的な達成感を求める傾向が強く、外交的で協調性の高い人が「病的ひきこもり」になるリスクが高いことも分かったという。研究班は「一見、ひきこもりとは無縁と思われる人でも、自宅にこもる状態が続けば、早い段階で病的ひきこもりに陥るのを防ぐ支援が必要になる」と指摘する。研究班は昨年10月、国際学術誌でこれらの研究成果を発表した。 情報通信技術の発達もあり、働き方や学び方は多様化している。加藤氏は「病的ひきこもりのリスクが高い人には在宅ワークを控えさせたり、自宅にいながら社会的な達成感を得られる役割や仕事を割り振ったりするなど、個人の特性に応じた形を考えるべきだろう」と話す。